「でぁああああ!」

 つたない手つきで振り下ろされた剣が、既に避ける気力さえも無くなったモンスターを捕らえ、紫煙を上げながら塵へと変えて行く。

「おー。お見事お見事」

「一樹! お前も戦えよー!」

「俺はもうレベル高いからな。旅をしながらおいおい成長するよ」

「きたねぇよ!」

 勇者の地位が決まってから二人は、レベル上げに専念していた。

 剣道師範代の一樹は良いとして、剣を扱い慣れていない智之は、少なからず苦労をしていた。

「二人ともそろそろ上級者レベルに達してきたんじゃないか?」

 訓練風景を覗きに来たリドルが二人それぞれにチラシを渡した。

「格闘大会?」

「そうだ。ここツェントルムは前にも言ったがオーミターションの中心になる街だ。この中心都市に周辺の街から兵どもが集まって、力自慢をするんだよ」

「へー……」

 リドルの説明に生返事を返しながら、二人の視線はチラシの『優勝賞金』に釘付けになっていた。

 世界を救う鍵だからと言って、ここツェントルムでは宿も食料も皆無料で提供して貰っているが、凶作のこの年に、甘えているのも悪い気がしていたのだ。

 それに、これから旅に出るのなら尚更金は必要になる。

「いっちょやりますか? 一樹さん」

「賞金、部門別だしな。割といい稼ぎになるだろ」

 当たり前のように優勝できるつもりで居るあたりどうかと思うが……

 何処からその自信が湧いて来るのだろう、そんなリドルの感想も最もだった。

 しかし、その言葉を実現出来てしまうのがこの二人の怖いところだ。

 智之も、一樹よりは下がるとは言え数字に直せばレベルはとっくに60を超えている。リドルの言葉によれば、毎年この大会にはレベル60以下の者しか現れないと言うから、二人がトーナメントを勝ち進んで行くのに障害は殆ど無かった。

「格闘技の部、勝者 トモユキ!」

「剣術の部、勝者 カズキ!」

「射撃の部、勝者 トモユキ!」

「弓の部、勝者 カズキ!」

 二人の名前が次々と叫ばれ、二人の持ち金がどんどんと増えていった。

「しかし、弓はわかるが何で拳銃?」

「昔、異世界の住人が持ち込んだんだ。作れる奴が限られてるから、今じゃ実践じゃなくて競技用って感じだがな」

 智之の質問に答えてやるリドルの手には、いつの間にか『戦略部門』の優勝賞金が持たれていた。

「あの…!」

 大会も終わりを告げて、三人も帰路に着こうとした時、背後から女性の声が聞こえて来た。

「なんでしょう? お嬢さん」

「リドル、何時もと声違う……」

 突っ込みを入れた智之の腹に、鈍い痛みが走った。女性から見えない位置でリドルに肘鉄を食らったからだ……

「あの、もしかして……貴方がたは『鍵』となる人物では…?」

 恐る恐る尋ねて来る。

 智之も一樹も、元の服のままでは目立つので、オーミターションの服を着ていた。  

 だから外見から判断はつかないが、大会での実力と、鍵が現れたらしい、と言う噂を信じ、声を掛けてきたのだろう。

「失礼ですが、貴方は?」

 人に物を尋ねる前に自分の名前と身分を喋れ。一樹の言葉にはそんな意味合いが含まれていた。

「あ、申し訳ありません。私はツェントルムから西に行った所にある街、ヴィンドの族頭を勤めさせて頂いております、スィーラと申します。お見知りおきを」

 深々とお辞儀をするスィーラの髪が、重力に従ってサラサラと肩から滑り落ちて行く。と、髪で隠れていた耳が見えた。

先の尖った長い耳。エルフ族の特徴だ。

「エルフの隠れ里、ヴィンドか……噂には聞いていたが、そんな所の長が何故ツェントルムに?」

 様子を窺いながらリドルが問う。質問に対する答え方と言うのは、その人間が嘘をついているのか、いなのかがはっきり解る。

 一秒掛かるか掛からないかのタイミングでスィーラが答える。

「鍵に、お渡しせねばならない物があるのです」

 笑顔を崩さないまま答えるスィーラを見て思った。この人は鍵に直接話す気でいるし、これ以上探りを入れてもボロを出さないだろうと。

「俺達が鍵だって言う事を、どうやったら信じてくれますか?」

「それは、我が街にある洞窟を制覇したら、です」

 にっこり。

 どうやら西に旅立つ事になりそうだ。