「一樹、残り時間どのくらいあるんだ?」
「あと二時間半」
「ちょっと智之、本当にそんなので開けられるの? その鍵」
「大抵の鍵は、針金で開くと、相場は、決まっているのだよ………ほら開いた!」
フォイヤーに着いてからの四人の行動は怒涛を極めた。
まずは街中を上げての大歓迎と宴を繰り広げられ、泊まり部屋に案内され、街長のお話を聞いて、石版を取るのに必要なアイテムとその使い方を説明され、またしても盛大な出立の宴を繰り広げ、やっとこ今に至るのだ。
街長から支給された必要不可欠なアイテム、それは特殊加工を施した耐熱服だった。
石版は活火山の中に封印されていたのだ。
「耐熱服は、あくまで『熱』を防ぐ物です。
くれぐれも溶岩やマグマに触ったり落ちたりしないで下さいね?
いくらなんでも耐えられませんから。
それと耐熱服の使用時間には制限時間があります。
往復五時間。これ以上着ていると服も体も持ちません。
服に至っては解けてくる可能性もありますから、十分ご注意下さい」
街長からの説明は以上だった。
ヴィンドの時よりはまともかな、と思いつつも、火山の中に入らなければならない辛さが四人の精神を暗くさせていた。
そして、いざ入ってみると……
「予想より、熱っちぃ……よね…」
「どこが、耐熱服、なんだ? これ……」
「脱いでみればわかるんじゃねぇ?」
「………痩せるわね」
とうとうアテナまで壊れたらしい。
智之に引き続き言っている事の焦点がズレて来た。
「分かれ道〜…。俺左が好き〜〜」
「根拠は?」
「無いよ。こいつダンジョンに入るといつも絶対左に行きたがるんだ」
「普通は右よね……」
等と言いながらも四人は左に曲がった。
反対する気力も、二手に別けて数分後に合流すると言う手を考える思考回路も熱さで解けてしまっているからだ。
左に曲がって暫くすると、少し大き目の広場に出た。
「ここで、行き止まりかしら?」
「だったら石版あるはずだよねー?」
「隠してあるんだろーよ。ご丁寧に」
「探そうぜ、時間が無い。こう言う時は大抵、壁の窪みとか柱の文字、床の文様がきっかけになってる筈だ」
一樹に言われた通りの場所を念入りに調べると、床に如何にもここが開くぞ、と言う扉。
壁に書かれた文字と四つ角に作られた台座。台座に置くのであろう四つの置物が見つかった。
「文字の通りに置物を置くと床から石版が出て来るんだな、これ」
「う〜ん。王道」
一樹と智之は少し前に二人でやったRPGを思い出していた。
「なぁ、これなんて書いてあるんだ?」
言葉は何故か通じているが、文字は読む事が出来ない為、後の二人に解読を頼る。
「【鍵となりし者現れたれば、力の粋で作りし駒を、力の司るべき場所に配置せよ】って書いてあるけど、何にもヒント無いぜ?」
しばし悩んだ末、一樹と智之は同じ結論に出た。
「中央都市のツェントルムから見て、ヴィンド【風】が西だったでしょ? この街が【火】で南なんだから……」
「【水】が東で【土】が北だな。問題はこの置物が何処の物なのかだ……」
四つの置物をしげしげと眺め、形を見比べる。
一つは五芒星の中に蜥蜴(トカゲ)らしき彫り物があるプレート状の物。
二つ目は五芒星の中に一枚の羽が彫られている。
三つ目は五芒星の中に段の付いた円柱の、角にも見える彫り物。
四つ目は五芒星の中にまた角度を変えて五角形の星が彫られている。
「……一樹どう思う?」
「羽は分かりやすいよな。風だろ? 後だよ、問題は」
蜥蜴に角に星。 全くなんの事だか分からない。
「ねぇ、蜥蜴って、サラマンダーの事かしら?」
「サラマンダー?」
「ええ、ここよりもう少し西寄りの地方で出現するモンスターよ。火蜥蜴サラマンダー」
ぽふん。
二人の手が同時に鳴った。
「それじゃあ蜥蜴は火だ。後は、星と角か。リドルさんなんか心当たりねぇ?」
一樹の問いにリドルはしばし沈黙してから歯切れ悪く話し出す。
「噂で、森や大地の守り神としてユニコーンを崇めている街があるとは聞いた事があるが……」
ぽふん。
またもや二人同時に音が鳴る。
「じゃ、角のこれが土だ。余りは水だね」
「でも、なんで水が星なのかしら?」
「水が空の星を映すから、とか?」
「…ヒトデじゃねぇか? これ」
ぽふん。
一樹の言葉に三人の手が鳴った所でそれぞれがプレートを台座にセットしに行く。
「いいー? せーので置くよー? いっせーの、ほい!」
カシュン
と言う小気味良い音と共にプレートが台座に飲み込まれて行く。
完全に台座がプレートを飲み込むと、何の模様も無かった台座に、プレートと同じ模様が浮き出て、床へと沈んで行く。
完全に台座が床と同じ高さになると、模様から蜥蜴は赤、羽は紫、角は翠、星は蒼色の光がほとばしり、中央の扉へと集まる。
「綺麗……」
思わすアテナが言葉を漏らす。
中央に集まった光は、その姿を白銀の光の壁へと変え、その光が収まる事には床下から新たな台座がせり上がり、石版が姿を現していた。
「すげ―……ほんとにRPGみたいだー」
「ゲームってやつの事か? こんな仕掛けのある話なのか?」
「うん大体はね」
「石版取ったぜ。精霊も」
一樹の声に台座の方を見ると、ヴィンドと同じく石版の上に浮かびながら正座をしている赤い物体が、どうやらこの石版の精霊のようだ。
【無事石版入手好事。我出口皆送迎呪力皆無。陳謝。急帰! 時間制限!】
一瞬精霊が何を言っているか悩んだが、最後の『時間制限』で分かった。
「ああ、自分には出口まで送る力が無いからごめんって言ってるのね」
「で、時間が無いから急げ……と……」
そこまで言って、やっと一樹は気が付いた。
耐熱服のリミット目安として貰っていた時計が、残り一時間を切っている。
「やべぇ……あと一時間無いぞ!」
「うわ! 戻らな!」
「この熱い中走るのかよ!」
「服が解けるよりましよ!」
石版を抱えて走り出す四人だったが、来るのに四時間近く掛かっているのだ、帰るのには、仕掛けを解く時間が無いとしても二時間は欲しい。
それを一時間で帰るのは到底無理な話しだ。
【近道!】
石版の横を飛んでいた精霊が叫ぶ。が、そっちは壁だ。
「近道? 壁が?」
【壁、破壊! 洞窟出現! 降下、出口眼前!】
精霊の言葉に、躊躇している暇は無かった。
「行くぞ男衆!」
「おお!」
本来、斬りに使うべき剣を、この時ばかりはつるはし代わりにガツガツと壁に叩きつける三人であった……
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