「この集落は、石版を守る為に作られた。他の街と違ってな」

 集落特製のスープを振舞いながら、長が話してくれたのは、この集落の歴史だった。

 他の街は元々街の在った所に石版を封印したが、この集落だけは、石版を守る為にここに作られたのだと言う。

「地の石版を封印するのには最適な洞窟がこの先にあってな。それに合わせて集落を作ったんだ」

 その洞窟は、元はドワーフと言う小人族達が宝石発掘の為に彫った物なのだと言うが、なんと、深さが半端ではない。

「構造は階段、仕掛け部屋、階段と言う物でな。深さは地下99階まである」

「99階?!」

 その深さに、智之の声が大きくなる。

 しかも1階1階に仕掛けが施されているのだ、考えただけでも既に気分は暗くなる。

「その仕掛けの中には、5人揃っていないと解けない物も在ると言う。後で集落の若いのを2人貸そう」

 長の言葉に引っ掛かりを覚える。

 必要なのは5人で、一樹達は4人だ。貸して貰うのは1人でいい筈だが?

 そんな疑問をそのまま言葉にした一樹に、長はこう答えた。

「洞窟は女人禁制だ」

「なんですって?!」

 頭数に入っていなかったのはアテナだったのだ。

「石版の守り精霊が女嫌いでな。洞窟にも近付けさせん」

「なんて我が儘な……」

 ぼやく智之の言葉に、火の石版精霊フォイヤーが頷く。どうやら、フォイヤーは地精霊の我が儘な所が嫌いらしい。

「精霊と、この集落の名は『エーアデ』洞窟の仕掛けについては、私も詳しい事は知らん。気をつけるんだな。なにか居る物があったら申し出てくれ。出来る限り用意しよう」

 長の申し出に礼を述べてから、四人はこれからの行動について短い会議を開いた。

 地下で、しかも色々な仕掛けがあるとすれば、持って行く物は多くなる。準備もしなければならないし、今はもう夕刻だ。ひとまず今夜は何処かに宿を取らせて貰って、明日、出立しようと言う事になった。

「アスラはここで留守番だな」

「一緒に行きたいけど、仕方ないわね」

 溜息混じりに言うアテナに、お土産持って来れたら持って来るねー、と智之が笑いかける。

 アテナの溜息の原因は、石版から遠くなる事なのだが、智之はそれを離れる不安と取ったようだ。

 色々なアイテムの準備は会議の後に行なわれ、希望した殆どの品物が揃ってから、少し早かったが明日に備えて就寝する事にした。




 そしてその夜もまた、黒の森では石版の場所を知らせる為の炎が上がった。

「俺が行こう」

 そう言ったのは漆黒の髪のフィンだった。

 言葉を放って直ぐに動くフィンの腕を、ドライが掴む。

「待て、俺が行く。もし、今度も失敗した時には、全ての石版をお前が奪え」

 実力で言えば、フィンの方が上。

 全てを任せると言う点で、ドライの意見は正当だった。フィンもそれに素直に従う。 

「帰って来い」

「そのつもりだ」

 短い会話の後、ドライは黒の森を出た。