宿
 カオスの魂が封じられている場所、蒼玄龍緋洞。

 その扉の前には、石版を携えた鍵以外の人間を近づけぬよう門番が置かれている。

 しかし、この門番が災いとなるとは、思ってもいなかった。

「……ん?」

 背後の扉に掛けられている封印に、微量な変化を感じた門番は、恐る恐る扉に近付く。

「結界が……また弱まった……」

 数十年程前に、シールの生き残りが掛け直していった封印が、時を経て、また弱まり始めていたのは聞いていた。しかし

「これ以上弱まったら、封印は破られてしまうかもしれない……」

 門番の男がそう危惧した時、頭に直接届く声が聞えた。

【意識を飛ばすだけなら、このくらい弱まれば出来るのだよ。この私は】

「何だ?!」

【恐ろしいか? 目に見えない敵が】

「まさか……!」

 声の主を捜し当てようと、当たりを見渡す門番の目に、黒い霧が写った時にはもう遅かった。

「うわぁあああああ!」

 絶叫を最後に、門番の魂は黒い霧に飲まれ、消された。

「くっくっく……やっとだ、仮宿とは言えやっと動く事が出来る」

 わざとらしいまでに白々と輝く満月を背に、仮宿を手に入れたカオスは黒の森へと足を向けた。