蒼玄龍緋洞。

 またの名を封印の地。

 ここに、カオスの魂を封じた邪剣とそれを押さえる為の聖剣。

 そして異世界への扉が封印されている。

 それらの前にある、石版の台座に、今、150年ぶりに四枚の石版が戻された。

 はめ込むと同時に眩い光を放ち、辺りを白く包み込む。その光が台座のあった部分だけ切り取ったように消えるとそこに入口が出現した。

「行くわよ」

「本当に上手く行くのですか?」

「全大戦で、私でも軽い結界なら解ける事が分かったの。
 光の初級魔法を使えるのと同じ様に、ある程度の結界は崩せる
 。残念ながら、剣の封印を解くまでには至らなかったけど……」

 光の術が何故使えるのか。

 幼いアテナは血の海にいて、心を壊しかけている所をカオスに拾われた。

 後に、アテナの父が長を勤めていた村が、裏切りによる内乱で壊滅したのだと、自分はその生き残りだと知る。
 そして、その原因が自分なのだとも知った。

 闇と光の間に性を受けたアテナ。

 カオスに拾われた時にはもう使えた高等魔術。
 その闇の力を恐れた村人が、アテナ親子の殺害を目論んだ。

 親子を守ろうとした者、殺そうとした者。
 村は入り乱れ、内乱となった。

「我は闇と光が共存する世界を作りたい。お前の村のような事が二度と起きないように。その為には、闇と光の力を持った、お前の存在が必要だ。アテナ、我と共に生きろ」

 アテナの心は、その言葉で均衡を取り戻した。

(全ては、カオス様理想の為……)

 昨夜までは一樹の握っていた剣を取り、アテナは洞の結界へと歩みを進める。

 細やかに入り組んで張られている結界を、一つ、また一つと慎重に解いて行く。

 洞を半分ほど進んだ辺りから、邪剣から流れ出るカオスの気を強く感じる。

 弱まっている結界だからこそ、アテナにも解ける。
 それに、変形石の剣があると無いではアテナに掛かる負担は大きく違う。

(後もう少しで、剣にたどり着く……)

 表情に僅かな疲労の色を浮べ、最後の結界を解いた。

 先に進むとそこは、150年前の……いや、アテナにとっては少し前だが、前大戦を繰り広げた場所が広がっていた。

 正面には異世界への扉。その前に聖剣イリヤ。イリヤを頂点に五芒星が地に描かれ、その中央には、邪剣カオス。

「カオス様……」

「よくやった、アテナ」

 背後からの声に振り向くと、そこにはアテナの見知らぬ男が立っていた。しかし、その体から発せられる気は、紛れも無いカオスの物。

「……お久しゅうございます。カオス様」

「大事ご苦労だった」

「勿体無いお言葉」

 歩を進めるカオスに、アテナ達は道を開ける。
 仮宿のまま、カオスは邪剣に手を伸ばすが五芒星の結界に阻まれる。

「やつ等は、いつ来る? アテナ」

 結界に焼かれた手を見ながら、笑みを浮べカオスは問う。

「……性格からして、2〜3数日中には来るかと」

「そうか」

 笑う。

 まるで闘いが待ち切れないかのように……