意 |
「あれが蒼玄龍緋洞か……」
「はい」
一樹の完治を待って3日目。
サルースの治癒魔法の働きもあって、一樹は驚異的な回復力を見せた。
「一樹、ほんとに平気?」
「大丈夫だって。痛かったらここまで登って来れねぇよ」
出立してから何度目かの質問。サルースもリドルも心配しすぎなんじゃないか? と智之に言うが、何度も聞くには理由が、と言うか、一樹には前科がある。
怪我をしていて、安静にしていなければならない時に無茶をして、仕事はこなしたがその後怪我を広げた事があるのだ。
しかも多々。
その時も『大丈夫だって』と言っていたのである。
しかも始末に悪い事に、一樹は痛みを顔に出すタイプじゃない。傍目では分からないのだ。
「本当に無理するなよー?」
「わかってるって」
実際、痛みは無い。傷も塞がっている。が、無理をするなと言うのは、それこそ無理だ。
カオスとの戦いなのだ。傷が開く事くらいは覚悟しないと、きっと勝てない。
「着きまし…た……」
案内役のサルースが驚きに声を失う。
「どうした?」
「結界が、破られている……」
「なんだと?!」
「石版をはめ込んでも、邪剣までの道には光と闇の入り組んだ結界が張られているはずです。しかし、それらが全て破られている」
サルースの言葉に、3人が思った者。それはアテナだった。
同行している間、闇の術を使うと正体を怪しまれると思ったのか、光の術を使っていたアテナ。
本来使えない筈の術まで使いこなす彼女が、智之の剣を使えば結界は破れるのではないか? そう思った事をそのままサルースに伝える。
「アテナが光の術を……? そんな……」
「やっぱ、特殊な事なのか?」
「ええ。産まれ持った性質と全く逆の力を使う訳ですから……」
そこまで言って、サルースは自分の言葉に何か気がついた様にはっとなって言葉を切った。
「産まれ持った性質…ではアテナはあの村の……? でも、それなら何でカオスの下に……?」
「あー! もう。サルース、それ俺等に聞かせて良い事、悪い事どっち?!」
「え?」
俯いて一人呟くサルースに痺れを切らせたか智之が、無理やり顔を上げさせ問い詰める。
「だーかーらー! 俺等が聞いといた方が良い事? 聞かなくても良い事?」
「……今の所、推論の域を出ないので、特には」
「んじゃ口に出さない! んで立ち止まらず先に進む!」
「は、はい」
智之に気圧されたサルースが洞の中に足を進める。次いで智之。少し離れて笑いを堪えるのに必死になっているリドルと一樹が続いた。
出立の前に、サルースが2人に告げた事は次の二点。
「どうやら。カオスから生け捕りの命令が出されているのは一樹の様です。だから、なるべく一樹は前に出ず、カオスとの距離を取って戦って下さい」
「カオスを消滅させるには、文字通り魂を消す事。
一度邪剣から魂を開放し、無防備になった魂を聖剣で切る必要があります。
私か、お二人のうちどちらかならば聖剣を使う事が出来ます。
ですから、私が邪剣の封印を解いた瞬間、どちらかが魂を切って下さい」
サルースの説明に、智之は黙って頷き、何も疑問を持たなかったようだが、一樹は違った。
(聖剣で切るなら、俺達の存在意味は結界を解くだけか? 前はそうだったみたいだが……大体この剣を持つ意味は?)
考える一樹の脳裏に、少し前に見た夢が浮かんだ。
どこまでも続く闇の中を、光に背を向け呼ぶ声に向かって歩き続ける夢。
(……なるほどな)
一樹は一つの結論とも言える推論を導き出した。
(これが正解なら黙ってるのもわかる。特に、智之には……)
自分の前を歩く智之を見ながら、一樹は静かな決意を固めていた。 |
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