俺、滝川一樹(たきがわかずき)は今、学校帰りだ。が、その道すがらバイトとは違う、個人経営の『仕事』をしている真っ最中だった。
「うらぁ!」
声だけは威勢の良い、隙だらけの攻撃を避けて、足払いを掛けて転ばせ、上から思い切り踏みつける。
嫌な感触がした。
もしかしたら骨の2〜3本はいったかも知れない。
俺が営業している仕事は『何でも屋』。まぁ、仕事内容は読んで字のごとく『なんでも』だ。
課題を代わりにやっておいてやる。
出来る範囲の部活に入部して、大会要員になったり、頭数を揃えて部費の確保に役立ってやる。
自転車の鍵を無くしたら針金で鍵をあけてやる。
バイトの代勤をしてやる。
喝上げされたら代わりに殴り倒してやる。
など等。そんな仕事だ。
もちろん、普通のバイトもしている。学校では正式な剣道部員なので、練習が終ってから宅配→居酒屋→深夜ガソリンスタンド→早朝コンビニの合計4つの掛け持ちバイト。
その合間を縫って、昔習ってた近所の剣道場の師範代も勤めさせてもらっている。
で、その他に何でも屋をやっている訳だ。
なんでそんなにバイトをするか?
金が必要だからだ。
何で金が必要か?
一人暮らしだからだ。
昔は、家族4人で暮らしていた。
父、母、俺、妹の4人。
だけど、仲良し家族なんかじゃなかった。
父と母は俺がガキの頃から仲が悪く、毎日の様に喧嘩を繰り返していた。妹が出来たのが不思議なくらいだが、妹の存在は一時期だが、家族らしい家族になるきっかけになった。
妹が5歳の時。俺が8歳の時に、妹が事故で亡くなった。
それを切っ掛けにして家族は崩壊。
父は女を作って蒸発。
母はそれでも俺が中学を卒業するまでは育ててくれた。が、そこからは『女として生きる!』とかのたまい、市の学費補助パンフレットを大量に置いて男と出て行ってしまった。
俺は、受験を直前にして志望校を変えざる得なくなった。
入学費と授業料免除の特別奨学生制度を取り入れてる私立校に志望校を変更した俺は、見事にその枠を取り、親友・横田智之(よこたともゆき)と共に通っている。
智之とは、幼稚園からの付き合いで、うちの事情も良く知っている。
「親父が家出てったんだ」
と報告すれば
「良かったねー、暴力振るわれなくてすむじゃん」
と返って来た。
「志望校変えるんだ」
と言えば
「へー、あ。奨学金あるんだ。そんじゃあ俺もそこいこー」
とのたまう。
「母親も出て行ったんだ」
と教えれば
「え? それじゃ一樹一人暮らしなんじゃん? じゃ俺の金溜まったら二人暮らしにしよーよー」
と喜ばれた。
人が聞いたら『薄情な!』とか言うかもしれないけど、俺には必要な能天気さだった。
救い
と言うとちょっと大袈裟だけど、智之の言葉が、俺にとって必要だったのは確かだ。
そんなこんなで高校生になった俺は、只今喧嘩の代行を終えた所だった。
「明日はお休み。今日はもうちょい付き合えるけど? どうするよ? まだやりたいか?」
『手加減無しでぶちのめしてくれ!』と言う依頼の元に、日頃のウサをここで晴らすべく容赦しなかったせいだろうか。相手は三人いるのに俺は無傷で三人はボロボロだった。
「も…勘弁してくれぇ……」
喋るのも辛い様子で一人が答える。
「あそ。んじゃな」
仕事が終ればもうこんなむさい奴等に用は無い。人通りの少ない路地裏から表通りへと抜ける。
その途中……
さっき居た路地からは見えなかったまた別の路地で、女が倒れていた。
(……この服は…なんのマネだろう…)
そう思わざる得ないのは、寒くは無いとはいえまだ中間服のこの時期に、ノースリーブのワンピース。しかも、腿から大胆すぎるくらいに入ったスリットと、胸の開いたデザインはどこかのパーティードレスを思わせた。しかし、それにしては生地がシルクとか高そうな物ではないし、腰に不似合いな革のベルトが回されていた。
なんとなく、そのベルトに視線を向けた俺は、奇妙な物も一緒に見てしまった。
刀だ。
(いや、剣って言った方が良いか? 確か日本は銃刀法ってのがあった筈……)
その法を破って帯刀しているとしたら、大概がいわゆるコワイ関係の人達…
(姉(あね)さんとかだったらどうしよう……)
と、ここまで考えておいて、普通は係わり合いにならないよう置いて帰るか、人が倒れていると匿名の通報を入れてオサラバする所なのだろうが…
(助けてヤの人達に恩を売るのも良いかもしれない……)
俺は女を担ぐと、そう遠くない自宅へと帰る事にした。
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