森から抜けて、暫く道無き道を進むと、その道は街道に代わり、少し大きな街が見えて来た。

「ここはツェントルム。オーミターションの大体真中に在る街だ」

「オーミターション?」

「この世界の名前だ」

 リドルの言葉に解らない単語が出て来ると、智之がいちいち聞いて行くので話がなかなか前に進まないが、それでも徐々に状況となすべき事が見えて来る。

 質問は智之に任せて、一樹はこの世界の文化を頭で整理し始めていた。

「つまりは、一度封印された魔王が復活して、更に封印して、今に至るが、封印の力が弱くなって来ているせいで世界が不安定で邪軍達は無い頭を使って魔王復活を試みている。と」

「そう言うことだ」

 話をするのには食い物屋だ! と言うリドルの意見でテーブルを囲んでいた一同は、延々と『オーミターション』の歴史についてリドルから話を聞いていた。

 一樹の言った内容で間違いは無いのだが、150年近い歴史をこの要約では、色々はしょり過ぎな説明ではある。

「で、その魔王が狙ってるのが異世界進出で、お前等がその封印された扉を開ける鍵って事だ」

 つまりは、魔王から狙われる存在だと言う事。 一樹はこれからの身の振り方に考えを廻らせた。一方疑問に満ち溢れているのは智之だ。

「なぁ、元々は文化学ぶ為にこっちから自由に行き来してた扉が、なんで異世界の人間使わなきゃ開かないんだ? 扉が開かないのにどうして異世界の人間がここに来れるんだ?」

「それについては俺も詳しく知らん。けど、詳しい人物は知ってる」

「誰?」

「この街の中心にある聖堂館の聖者様だ」

 そう言うリドルの案内で聖堂館に通された一同は、喜びと驚きを持って歓迎された。

「鍵が……」

「やっと、現れましたか」

「しかし……」

 こそこそと話される『驚き』の部分が気にならないと言ったらかなり嘘だ。

 一樹に至ってはイライラし始めている。

「お待たせ致した。ようこそ、異世界の住人よ」

 聖者だ。

 二人の予想していた『聖者』は白い髭に背の高い帽子をかぶったおじいさんだったのだが、出て来た聖者は割と若かった。

「さて、まず何からお話しましょうか?」

 他の者と違い、聖者に驚きは無かった。しかし、智之は先ほどリドルに向けた質問ではなく、今一番に疑問に思っている事の説明を求めた。

「なんで俺達驚かれてるんですか?」

「二人、居られるからですよ」

 聖者からの早い返しに、反応したのは一樹だった。

「……伝説では『鍵』は一人の筈なのか」

「そうです。だからお二人を見て驚くのでしょう」

「その『鍵』の役割ってなんです? 伝説ってどんなのです?」

 一樹からの問いに、聖者は話が長くなる事を断ってから、静かに語りだした。


 この世界の住人は光と闇、それぞれの力しか持たず、使う事が出来ない。

 そんな中で、異世界の住人達は光と闇を一つの体に共存させるこの世界には無い存在。

 一度目の封印で、鍵の役割は光と闇が混在した剣結界を造る事だった。

 邪王が封印された邪剣と、その威力を押さえる為に作られた聖剣の封印場所に、魔も聖も近付けない為の二重結界を張る事にはなったが、魔物以外魔術を使う術は無く、魔物が協力をする筈も無い。

 そこで協力を申し込まれたのが、文化交流を経て、この地に移住して来ていた『異世界の人間』だった。魔物の使う『闇の魔術』を研究していた研究者達と、光と闇を兼ね備えた『異世界の住人』が協力をして闇の結界を張ったのだ。

 その結界を管理し、『重ね結界』として光と闇の剣を用いて、結界の張り直しをしていたのがシール一族。

 だが、その儀式に失敗し、カオスの封印が一度解け、シール一族は一人を残して全滅。

 数年は邪王の統治が続いたが、シールの生き残りと、聖者、そして研究者のみでカオスの封印を再び行なったが、それは不完全で、カオスの意識だけが封印場所から漏れ出している。

 その意識さえも封じる為に二重結界に加え、光呪文を編み込んだ扉が取り付けられ、扉には光と闇を混ぜ合わせた石版が彫られた。 石版には、石版自体の守り人として、エルフ族の協力の下、四体の精霊が封印されている。

 現在石版は四枚に別けられ、それぞれ違う場所に深く封印されているのだと言う。

 しかし、その結果も時が経つのにつれて徐々に力を弱めて行き、カオスの意識が僅かにもれ始め、暗黒時代からの生き残りの魔物達が最近になって活性化しているらしい。

「ちょっと待って下さい、じゃぁ俺達はその石版を集めないと帰れないって事になりますね?」

「そうです」

 だが、それには邪王の復活も手伝ってしまうかもしれない危険性がある。

 一樹の質問にそう、付け足しながら聖者は答えた。

「……質問を一旦変えます。扉を通らず、どうして俺達がここに来れたのか?」

 それがわかれば、扉を通らずに帰る事も出来るかもしれないと思ったのだ。

「おそらくは…何か『媒介』を通して、聖剣の気がお二人をこの世界に呼んだのかと……」

 媒介、と言われて二人は思い当たる物が一つしかなかった。

「ぜってーあのゲームだ……」

 予想するに、文化交流とやらでオーミターションの事を知った者が、ゲーム会社に何らかの形で関わっていたのだろう。

「呼ばれたって事は、なんか俺達に要素があるって事ですか?」

 今度の質問は智之からだった。

 少し考えた後聖者は、意志の強さでは無いかと答えた。

「魔術を使う上で重要なのは念ずる気持ちや、思いの強さが大切です。仮にお二人が世界を救う等と思って居なくとも、自分と言う物をしっかり持った方なのだとしたら、巨大な術を使える素質は十分にお持ちです」

 確かに、お互い妙な意味で『自分』をしっかり持っている。

 明確な答えの出ない質問を何時までもしていても仕方が無いと、一樹がこれからどうするかを智之に話そうとした時…

「って事は、邪王を倒しつつ、扉の開放をしなきゃならんのだね……」

 ぽそっと、智之が漏らした。その言葉に、一樹が盛大な溜息をつき、周りに居た者達は一瞬息を飲んだ後、口々に何か言いながら二人に詰め寄って来た。

「え? 何??」

 驚く智之をよそに、周りの騒ぎは更に大きくなって行く。

 困った智之が視線で一樹に助けを求めると、呆れ果てた表情で一樹が言う。

「俺、この後の聖者の台詞当ててやろうか?」

『良くぞ言って下さいました。流石は伝説の勇者、世界の『鍵』となる人物。この世界の代表として、宜しくお頼み申します』

 一言一句ズレる事無く一樹と聖者の言葉が重なった。

世界を救う旅の始まりである………