砂の命 | T |
五つの砂が混じり合う場所。 それはこの世界の中心で、神秘が眠ると言われる『緑の砂』を指す。 「この場所か?」 赤の軍と共に移動をして来たラルドは、五つの砂が交じり合っている筈であろう場所に立った。 「伝承にまちがいが無ければ、その場所が『神秘』の中心だ」 「ま、うだうだ言っててもしかたねぇな。やるぜ」 ラルドの宣言を受けて、一同の者が体に巻きつける形の防砂服を殆どかぶる様に顔まで引き上げる。 中央だと思われるこの場所は、砂漠の真ん中だった。見渡す限り何も無く、各色の地方特色である気候の差も感じられなかった。 黄とも赤ともつかぬ茶の砂に手を置き、精神を集中させる。と、ラルドの周りにふわりと風が舞い、突如その風が吹き上がり周辺の砂を吹き飛ばした。 「出た!」 舞い上がった砂で視界を奪われていた一行に、歓喜したラルドの声が聞こえて来る。 「おい、これだろ? 五つの砂を受け止める大皿ってのは」 ラルドの声で防砂服を取った一行は、彼が指し示す銀色の大皿が砂の中に埋まっているのを見つけた。 大皿にはこの世界の地図が浮き彫りにされていた。 「これだ。伝承の通りだったな……」 膝を折ってその大皿に手を伸ばす。 つい、と触るその感触は冷たいようで暖かく、不思議な触り心地だった。埋っていたにも拘らず、その表面は傷つく事も無く、美しい輝きを持っていた。 「ここに、五つの砂を注げば伝承の完成だ」 呟き、腰の小剣を抜くと自分の指を少し切りつけた。じわりと流れる血を大皿の上に落とす。 ぽつぽつと落ちる血を受け止めた大皿が、ぼうっと仄かに光を発した。 「赤の砂は、受け入れられたな」 残り四つ。 その時、離れた場所からなにやら叫ぶ声が聞こえて来た。 リルの追跡に当たらせていた追跡兵が戻ってきたのだ。 「王! 追跡兵戻りました」 「報告しろ」 「は、白の民がこちらに向かっています」 「マスクナが? 自ら出向くとはな」 手間が省けたと笑うバシレウスに、兵は報告を続ける。 「昨夜、取り押さえようと蟲司殿にご助力願い蟲を遣わした所、一行の一人に尽く燃やされました。どうやら、黒の民かと」 燃やした、と言う言葉にバシレウスとラルドは反応した。 「燃やされたと言うのは、なにか道具を使っていたか?」 そのバシレウスの問いに兵は首を横に振る事で答え、手を一振りするだけだったと付け加えた。 「燃やしたって事は、焔の使い手……」 ラルドは自分が良く知っている焔の使い手を頭に思い描いた。 しかし、在り得ない。 その人物は『隔離塔』に閉じ込められ、ただ死を待つだけの状態で、もしかしたらもう死んでいるだろう。 「蟲司の方は確認できたのか?」 考え込むラルドをおいて、バシレウスは追跡兵にまぎれていた琥珀の髪の女に聞く。 「遠目でしたが、確認しました。やはり青の王子です」 簡潔な報告に、そうか、と短く答えるとバシレウスはにやりと笑った。 「なんにせよ、この神秘を解き明かすにはマスクナの力も必要だ。奴等が到着するまで待つとしようか」 |
10 章 |