の命 T
 美しい白石で作られた宮殿。
 荒野と化したこの世界の中で不思議と湧きいでる清水。
 その水で得た莫大な富で『白の民』達は各地域からの輸入品も加え、豊かで優雅な暮らしをしていた。

「姫様、今日のお召し物でございます」
「不思議な着物ね」
「はい。砂黄で作られているサラシャと言う着物です。この一枚の布を体に巻き付けるのだそうですわ」
「黄の民は面白い事をするのね。でも涼しそうだわ」

 きゃらきゃらと女達の笑い声が響く。
 ここは砂白地域の中央部に値する場所。
 ここにはオアシスと呼ぶには大きい湖があり、その湖は遠い昔からその場所で枯れる事なく湧き出していると言う。

「まぁ、姫様。良くお似合いですわ」
「本当に。姫様はお美しくいらっしゃるから、どんな物でもお似合いですわ」
「そうかしら? でもそれが本当なら明日は砂青の衣装が着てみたいわ。あの衣装を着ると男も女も分からなくなると言うじゃない? それでも私には似合うかしら?」

 ここ砂白から砂青までは砂漠を二つ越えなければならない。明日までに衣装を届けるには今すぐ宮殿を出ても間に合うかどうか難しい所だ。
 しかし明日にはきっと砂青の衣装が届けられているだろう。白の民達が命を賭けてでも持ってくる筈だ。
 彼女がそう望むなら。
 彼女は、白の民の姫。唯一無二の存在で、民が命を預けている『命の巫』でもある。
 幸福と平和の象徴として、父王達や民から溢れんばかりの愛情を受けて育ってきた彼女はどんな我が儘でも許されたし、どんな願いでも叶えて貰えた。
  煌びやかで
  幸福で
  華やかで
  優雅で
  楽しくて
 そんな毎日が当たり前の様に感じていた。
 そして、こんな毎日が永遠に続くものだと思っていた。
 悪夢の日までは……

「いやぁーー! 嘘よ、こんな……こんな事ある筈ない! みんな夢なんでしょう? ねぇ………嘘だって言ってよ!!」

 絶叫に続くのは悲鳴
 視界に迫るのは絶望
 先にあるのは無
 胸にあるのは裏切り

 平和と幸福の象徴で命の巫である彼女の世界は、その時を持って赤黒く塗り替えられた。