砂の命 | U |
少女が全身に汗をかいて、それでも体の芯まで凍えたような感覚で赤黒い夢から醒めると、眼前には二人の青年がいた。 「あ、起きたね。良かった。うなされてたから起こそうか迷ってたんだ」 ふわりと笑うのは青い髪。 心配そうに水を差し出すのは黒の髪。 躊躇しながらその水を受け取ろうとして、少女が身を起こすと青い髪の青年がそれを助けてくれる。 水を受け取り易いように近付いてくれた黒の髪の青年と、青い髪の青年に小さな声でありがとう、と言おうとして少女は突然身を硬くした。 黒の髪が、赤黒い色に見えたからだ。 「どうしたの?」 突然怯えだした少女を心配そうに見る青い髪の青年は、少女の視線の先に気がつかない。 けれど、視線を向けられている青年は気がついた。自分を恐れているのだと。 「カディ?」 少女の様子を伺っていた青い髪の青年は、後ろから肩を叩かれて水の入った杯を渡された。杯を渡した黒の髪の青年、カディは苦笑を浮かべたまま隣室へと去って行った。 「……カディが、怖かった?」 「あ……私……」 少し困ったような表情でそう青い髪の青年に問いかけられて、少女ははっとする。 怖かったのは髪の色。 その黒に限りなく近い赤が、悪夢の情景を蘇らせるから。 だけど、去り際に見せたカディの悲しそうな笑顔が胸に痛んだ。 「私……謝らなきゃ」 「あぁ、良いよ。平気だから。それより急に体起こさないの。一度死んだんだから」 労わる言葉の中の、一部分に少女は驚きと 警戒と恐怖とを混ぜ合わせた表情を浮かべ、青い髪の青年から逃れようと身を引いた。 「っう……!」 「あぁ、ほら。まだ完全に復活してないんだろう? 無理しないで」 口調は優しい。だけど、なんでこの男は知っている? 私が『生き返った』と。 「そんなに警戒しないでよ」 苦笑を浮かべて改めて水を差し出す。 それでも一向に警戒を解かず、寝台の上で壁に張り付いて小さくなっている少女に軽く溜息をついてから、青い髪の青年は唐突に自己紹介を始めた。 「僕の名前はナーク。性は無いんだ、そう言う一族だったから。砂青の出身で『蟲司』。今はさっきのカディと二人で世界放浪中。街から街に移動する際の護衛を仕事にしてるんだ。他に何か質問ある?」 寝台の横にあった椅子に座りながら、おどけた様子で「さあどうぞ」と言うナークに、少女は拍子抜けした様に肩の力を抜いた。しかしまだ警戒を完全に解いたわけじゃない。壁に張り付き、体は小さくしたままでナークを睨んで質問をぶつける。 「なんで私が死んだなんで言うの?」 その質問が来るのを予測していたのか、ナークは自己紹介の時と同じ様に微笑んだまま答えを返した。 「蟲司だって言っただろ? 君の体に残った傷の状態から見て羽虫に襲われたのは今回が最初だろ? なのに出血量と傷の深さが少なかった。そこで考えられるのは一つ。傷の治りが異常に早い人だって言う事。それともう一つ決定的なのは傷跡から推測した本来の怪我の症状。あれは完全に致死量の傷だったよ」 答えを聞きながら真っ直ぐにナークの瞳を見つけていた少女は、まだその視線を外さないままさらに質問を重ねてきた。 「私の敵じゃないって証明できる?」 「気絶している間にどうこうしなかったのが、証明になるんじゃない?」 微笑のまま小首をかしげて言うナークに、少女はやっと気を許した。 上掛けを握り締めていた手から力を抜いて、大きく息を吐いてから肩を落とした。 「話を聞いてくれる気になったかな?」 問いかけながら再度差し出してくれた水を受け取って、少女はゆっくりと頷いた。 |
2 章 |