砂の命 | U |
コンコン 遠慮がちな音が静かな部屋に響いた。 「入るよー?」 返事はなかったが、部屋に人がいる事は分かっているのでティコは勝手に入る事にした。 「寝てるの?」 扉を開ける音にも反応がないので聞きながら部屋に入る。 仕事が終ってから訪ねたせいで、空にはもう月が昇っていた。 「綺麗だな……」 ぽそりと呟いた言葉にも、部屋主は反応しない。 月明かりに照らされて、白金の髪が銀色に輝き寝台の上に波打っている。 (最初はぼろぼろだったから分からなかったけど、顔も綺麗……) 寝台のそばに置かれていた椅子に座り、思わず眺めてしまう。 寝ているリルの肌は過酷な旅をして来たにも関わらず、少しの荒れも見付からず、綺麗な物だった。 (これくらい綺麗だったら、男の人の方から寄ってくるんだろうなぁ) ふぅ、と溜め息をついて腕に抱えた服を近くの机に置いた。 (少しきつくなったやつだけど、彼女なら着れるよね) そう思ったところで自分の思考に少し落ち込んで、また溜め息を漏らした。 (ナークも、きっと綺麗な子の方が好きだろうな……) ティコは自分が思うほど劣る容姿をしているわけではないが、日に焼けた肌と、赤茶の癖が強い髪が嫌いでしかたなかった。 (こんな容姿じゃ……) 自信がないのだ。 (ナークには似合わないよね……) 青空のような美しい青い髪をした、端正な顔立ちの青年には、自分は似合わない。 伸ばしてみれば癖も重みで伸びるかと思って腰に届くまで長い髪を弄びながら、ティコははたと気がついた。 「……なんで、私ナークの事ばっかり?」 初めて会った時にも綺麗な人だと思った。 話してみて良い人だと思った。 滞在が思いがけず長引いたからと、店の事も色々手伝ってくれて、その中でもふとした優しさがさりげなくて…… 「気がついたら、いつも探してたな……」 視界の中に彼がいると何故か安心できた。 「何を探してたの?」 無意識に呟いた言葉へ疑問を投げられて、ティコは文字通り飛び上がるほど驚いた。 「リル、起きてたの!?」 「たった今」 横たわっていた筈のリルが半身を起こして方から胸にかかる白金の髪を、背中へと流している。 「それで、何を探してたの?」 「う、ううん! 何でもないの!」 聞き返すリルの言葉に慌てて返して、焦った勢いそのままで手元の服を掴みリルに押し付けた。 「あの、これ新しい服! 良かったら使って。それじゃ、私戻るね!」 口早に捲くし立ててばたばたと去ってゆくティコを、リルは薄く微笑んで見ていた。 実はさっきではなくもう少し前から起きていたリルは、ティコの『探していた』物がナークの事だと気がついていた。 (優しい人って言うならカディでも良いでしょうに。やっぱり女の子はぱっと見できれいな方が好きなのね) そう年が違うわけではないだろうに、妙に年上っぽい事を思いながら渡された服を寝台の上に広げていたリルはその服を見て苦笑を浮かべた。 四枚の服はそのうち三枚までが見覚えのある物だった。 (カディったら……) 昼間カディに押し返してしまった服だ。 きっとティコがお古を渡しに行くと聞いて一緒に渡すように頼んだのだろう。 (彼だって、こんなに優しい……) 貰った服を手に、明日はこれを着ていようかとリルは考えていた。 |
3 章 |