の命 T

「取り逃がしたか」
「申し訳ありません」

 赤い宮殿の中でも一番大きいと思われる部屋に、数少ない人間が神妙な面持ちで集まっている。
 玉座に座る王と、数名の兵士達だ。

「報告によりますと、どうも蟲司が関わっているようで……」
「蟲司? 滅んだはずだ」
「しかし、実際に蟲やられた者がおります」

 そう言って男は後ろに控えていた隻腕の部下を呼んだ。

「その腕、蟲にやられたと申すか」

 王に隻腕を眺めて問われ、男はおどおどしながらも確信を持って蟲だと答える。

「剣蟲と、敵は申しておりました」

 部下の答えに短く「そうか」と答えると、王は傍らに控えていた女に視線を向ける。
 女はそれに頷くと隻腕の男に視線を向けた。

「その蟲司、名前は?」

 視線を向けられた事で、発言権を得た女が、直接隻腕の男に問掛ける。

「名はわかりません。しかし、青い髪をした緑の目の男でした」

 その報告に、女は確信を持つ。

「王、間違いありません。その蟲司、砂青王族の生き残り王子です」
「おもしろい」

 女の言葉を聞いて、王はにやりと口を歪ませた。砂青と砂赤は真ん中に砂白を挟んで発展を続けていた国同士。
 昔から何かとお互いに敵対心を抱き反発しあっていた。

「砂青の王子がなんのつもりで近付いたかはわからんが、マスクナを渡すわけにはいかん。追跡しろ」
「御意」

 王の言葉を受けて、兵士達は敬礼を返すと各々の持ち場に散ってゆく。

「時が満ちる。もうあまり時間はない」