の命 T

 砂青に住む蟲司達が何においても優先させる、大切な祭。
 各国に散っている蟲司達が砂青に集り、王宮にて歌姫の歌を聞く。たったそれだけの祭になぜ蟲司達が必死に故郷へと帰るのか。
 他の者からすればそれは不思議で仕方ない事だった。まるでその祭に参加できなければ死んでしまうかのような必死さで皆砂青へと向かってゆくのだ。

「間に合わなかった者は?」
「ミルドが、まだ……」
「奴はたしか今、砂黄の端に居たか」
「あそこからでは、間に合わないでしょう」

 王宮の広間には、蟲司達が一同にかいしている。久方ぶりの再会を果たして喜び合っている者達の中で、ただ一人間に合わなかった者が居た。

「仕方がない。ミルドの事は諦めよう」
「王、それでは……」
「聖典祭を始めよう」

 王の決断と共に、配下の者達が動き出す。
 一部は祭りの準備に、一部は開始の合図を民達に知らせに、そして一部はミルドの処分について検討しに。

「王、ミルドは祭が終わり次第ラサ部隊が討伐に向かう事、決定致しました」
「うむ。それが良かろう。ミルドの性は糸。ラサの火の性で断ち切ってやるが良い」

 蟲司一族が生まれながらに持つ『性』
 それは蟲司としての力にも関係しているが、何よりも本性が現れた時にその性が重要な要点となる。

「父上」

 祭の様子が一望できる高みに作られた玉座に腰を下ろしたところで、背後にある入り口から声をかけられた。

「おぉ、ナーク。祭を始めるぞ、そろそろお前も席に着きなさい」

 首だけを巡らせて相手を確かめると、祭の為の正装を身にまとった青い髪の息子が立っていた。

「父上、ミルドを追う仕事、僕にさせては貰えませんか?」

 玉座の前に回り込んでしゃがみ、目線を父に合わせて言う王子の目は真剣だった。
 外に行ってみたい。その気持ちは王にもわかった。しかし、わかってやったところでそれを許可する訳にもいかないのだ。

「ナーク、それが無理な事はお前もわかっているだろう?」

 王族がこの地域から出れないのは蟲司の力を悪用させない為。もし各地で悪用の情報が入れば直ちに捕獲に向かわせ、連行し王族の持つ特別な力を以って蟲司としての力を奪う。
 純粋な王族にしか流れないその力を護る為にも、王子は外に出る事は叶わない。

「……すみません」
「うむ、辛いだろうがわかってくれ。祭を始めよう!」

 ぽん、と肩に手を置かれて王子は王の気持ちがわかった。王とて外の世界を見ずに終わる運命。お互いの気持ちは痛い程に解るのだ。
 王の命令に従って祭りが始まる。