砂の命 | U | |
「ナークって、王子様だったんだ」 「まぁ、一応ね」 苦笑交じりに言うナークに、ティコは「全然見えない」と手厳しい感想をくれた。偉そうにするつもりは無いが、褒め言葉ではないので少し肩を落としてナークは話を続けた。 「さっきも言ったけど、祭と言っても歌姫の歌を聴くだけの簡単な物なんだ。けれど、それが一日続く」 「歌姫さんは疲れないの?」 素朴なティコの質問に、ナークは笑う。 ここまでじらして話したら、本性とは何なのかを聞きたがるだろうに、話し辛い事は話せるようになるまで待っていようというティコの姿勢がこんな所でも伺えた。 「この祭の為に、歌姫は日々備えているからね。疲れるだろうけど最後までお役目はまとうするよ。だけど、その歌姫がとんでもない事をしてくれた……」 歌姫の歌は、蟲司達の本性を抑える為の鎮静作用をもたらす。 本性が現れた蟲司は生きてはいられない。だから歌姫の歌は蟲司にとって命そのものと言って良かった。だから誰もが必死になって王宮へと帰って来るのだ。 「ミラ、鎮めの歌を」 王に促されて、民衆の集る中その歌声を広く伝えられるよう高見台に立ったミラは、飾られた衣装と降り注ぐ光で神々しいまでに綺麗だった。 しかし
歌の歌詞が違った。 鎮めの歌ではないと、気が付いた時にはもう遅かった。 「ミラ、止めろ!!」 民衆の中から悲鳴が上がる。 血に流れる鎮めの力が弱まっていた者から本性の暴走が始まったのだ。 絶叫、悲鳴、嘆き、罵声、怒号、驚愕 民衆達が歌姫のいる高見台に押し寄せる。しかしミラは動こうとしない。 「ミラ! 今すぐその歌を止めろ! 鎮めの歌を早く!」 王族がいる別の高見台から王子が叫んでも、ミラは歌を止めようとしなかった。 次々と本性が暴走してゆく。暴走した本性を止められずに、狂い、そして殺戮に走る民衆達。それを、王子はただ見ているしか出来なかった。 |
8 章 |