家の南側に作られた縁側は、おばーちゃんの指定席。
新聞を拡大鏡で読むのも、洗濯物を畳むのも、縫い物をするのも、皆この場所だった。
「おばーちゃん。なにしてるの?」
とことこと近付くと、少しずり落ちた老眼鏡を直しながら、おばーちゃんは下に向けていてた顔をあげた。
「お針だよ。まこちゃん、危ないからあんまり近くまできちゃ駄目よ」
にっこり笑いながら言うおばーちゃんが、駄目と言うまで近付いて、器用に動く手を見ていた。
ちくちくちくちく。
なんにも見ないのに、なんの後も無いのに、おばーちゃんの手と指は器用に動いて、まっすぐで糸の目が均等な縫い目を描いて行く。
まこちゃんのおばーちゃんは70歳。でも現役で働いている。
おばーちゃんの仕事は『お針子』。まぁ、仕立て屋さんの事だ。
請け負う仕事は様々。反物から着物を作ったり、破けた服を繕ったり。時には、お母さんが着たウェディングドレスを娘が着たいから、作り直して欲しいと頼まれたり、何着か服を持ってきて、袋にしたり、つぎはぎして別の服を作ったりする、リサイクルもやっている。
「おばーちゃんは昔の人なのにどうして洋服もつくれるの?」
おばーちゃんのそばに寝っ転がりながらまこちゃんが聞きます。
結構失礼な事を言っていますが、まこちゃんはまだ5歳なのであまりそういう事は気にしません。
「おばーちゃんはね、若い頃洋服を作っていたの。まだまこちゃんには分からないだろうけど、明治時代から日本にも洋服が入って来てね、最初はお金持ちしか着れなかったけど、段々皆が着れるようになってきて、洋服を作ったり形を考えたりするようになったの。おばーちゃんはその仕事をしていたのよ」
昔話をするおばーちゃんは、いつも幸せそうでした。
苦労もあったけど、それも良い思い出だわ。
そう言って笑うのです。
まこちゃんはそんなおばーちゃんが大好きでした。おばーちゃんが作る服も、その仕事自体も。
時が経って、まこちゃんは、おばーちゃんのやっていた様な仕事は『デザイナー』と言う職に就けば良いらしいと知ります。
「兵藤真琴。将来の夢は自社ブランドを立ち上げる事を前提で、服飾デザイナーになる事です!」
***
第一幕 第一場
暗闇の中に少女がしゃがみ込んでいる。
ピンスポットが当たり、少女起き上がる。
少女
(起き上がりながら)
ここは…どこ?
私はいったい…?
(彷徨う様に歩く)
進行役を勤める役者登場
進行役
いらっしゃい! ようこそ不思議の国へ!
(少女の動きがぴたりと止る)
私はこの国へ迷い込んだ者を導く進行役。道化師とお呼び下さい。
さて、彼女。彼女はなんでこの国に来たかというと、こうだ!
(子供ABC登場)
進行役
彼女は学校の帰りに、いつも通りいじめられていた。
(子供達と少女パントマイムで再現)
それから逃げ出した少女は町の中を走った。知らない道もね。
(少女舞台上を走る。子供追うが途中で消える)
そして、知らない路地に迷い込んだ少女は微かに光る可愛いドアを見つけた。ノックをするが返事は無い。ノブを回したら…
(少女ドアを開ける仕草。急に中に引きずられ、倒れ込む)
この世界って訳だ。さぁ、これから彼女は辛い旅をして元の世界に帰るドアを探さなくちゃならない。そろそろ、彼女を起こしてあげよう。
暗転
***
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