夕飯時に家に帰って、毎日同じ会話の繰り返し。それが明良には辛かった。
「お帰り。遅かったのね」
台所から振り返りもしないで毎日同じ事を言う母。それに明良も視線を配る事をせず答える。
「学校で進路相談してたから」
「進学先、まだ決まらないの?」
「今探してる」
イラついた明良の声に気がついていないフリをして、母はまた淡々と毎日同じ事を言う。
「だから無理だって言っているのよ。舞台の裏方なんて。大学行って、将来お父さんの会社に役立つ事を勉強すればいいのよ。少しの間お父さんの会社で働いたら、お母さん達がいい人を決めてあげるから……」
「止めてよ!」
ヒステリックに叫んで母の言葉を遮った。
うんざりだった。
良い大学、父の会社、良い人と結婚。
まだ18歳でなぜそこまでの未来を、全て親に決められなければならないのか。
もう18歳なのに、なぜ自分の未来を選ばせてくれないのか。
毎日思い続けた憤りが、一気に噴出して明良は声を荒げて思いのままに言葉を紡いだ。
自分の未来で、お母さん( あなた )の未来じゃない。自分の将来を、自分で決めたいと。
でも
「学校一つ見つけられないで、希望の職に就けるの? 現実は貴方が考える程簡単じゃないのよ。舞台の裏なんて、まともじゃない仕事なれる訳ないでしょう? 大体、男の職場だって言うじゃない。女の貴女が出切る筈ないわ。夢見てないで、もっとちゃんとした仕事に就きなさい」
母の言葉は冷淡そのもので、意見を変えるつもりは全くないようだった。
そんな母に明良は言葉を失い、自室へと駆け込んだ。
「お夕飯は?」
「いらない!」
追ってくる声を怒鳴り声で締め出して部屋の鍵をかける。
今日もまた、同じだった。
また、説得できなかった。
学校には、親からの学費支援がなければ通えない事くらい解ってる。だけど、それ以上に明良は自分の希望を受け入れて欲しかった。
認めてもらった上で、その道を歩みたい。
「やっぱり、諦めるしかないのかなぁ……」
学校で言った自分の言葉を思い出す。
諦めようかな……
しかし、一緒に浮かんで来る言葉は全く逆の、真琴から投げられた言葉だった。
諦めるなよ!
「あいつは、上手く行ってるからあんな事言えるんだ……反対もされてないみたいだし。だけど……私は……」
***
第二幕 第二場
少女
おじさん、あの男の子知ってるの?
商人A
ああ。あんたと同じ、異世界から来た子だろ?
あの子は西の町じゃちょっと有名なんだよ。
少女
有名? どうして?
商人A
砂竜の住処になってる岩山を超えればここへの近道なんだが、砂竜は獰猛な竜でな、皆そこを避けて遠回りしていたのさ。
だけどあの坊主はその砂竜を手懐けたって噂でなぁ。
少女
竜を?
商人A
ああ。きっと命がけだったに違いねぇや。
(横にいた商人Bがグラスを片手に話し掛けてくる)
商人B
なぁ、その竜を手懐けたってのはその嬢ちゃんくらいの坊主の事かい?
商人A
ああ、そうだ。なんだあんたもあの坊主知ってんのかい?
商人B
知ってるも何も、坊主がこの世界に来た時に道案内をしてやったのはこの俺なのさ。
あん時は確か東の町に行くような事言ってたが…こりゃ驚いたね。
少女
なんで驚くの?
商人B
俺が居た町から東の町へは大人の足でも一週間は掛かる。
その街から砂竜の山に行くのには二週間以上も掛かる。
それをあの坊主は二週間ちょっとで進んじまってる。
商人A
二週間?! そりゃすげえ。
少女
でも、旅で魔法使いとかと知り合ってたみたいだから魔法で楽したのかも…
商人B
馬鹿言っちゃいけねぇよ譲ちゃん。
砂竜の山周辺は魔法が一切使えない死の大地。
水が枯れ果てた砂漠なんだぜ?
***
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