明良と会話をした翌日から、真琴は演劇部からの依頼で衣装デザインをするかたわら、美術担当や、照明担当の面々と使える色彩や布地、セットとのトータルイメージ等を忙しく話し合い、あっという間に二週間が過ぎてしまった。
その間明良とは顔を合わせる事すら出来なかった。
同じ学年だとはいえ400人近い人がいれば、三年間全く係わり合いを持たない人物も出て来る。明良も、今回の演劇部の件がなければその一人だっただろう。
元々クラスも違うし、ちゃんとした会話なんてあの時が始めてだから、会おうとしなければ学校でも、学校外でも会う事はほとんどなかった。
そうこうしているうちに夏休みに入り、余計に会う機会を失った。
(自分の進路が決まってるからって人の心配をしている余裕はないんだけどな……)
学校をあげての一大イベント『学園祭』は、夏休み明け二週間後に行われる。
演劇部の衣装もだったが、自分の裁縫部出展用作品も作らねばならず、真琴は連日学校に通い詰めていた。
(でも、今日は外せないからな)
学生服ではなく、私服に身を包んで真琴が向かっているのは学校は学校でも高校ではなく、来年自分が通うであろう専門学校だった。
「こんにちは」
「あら、真琴君。早いわね」
「ここ見たら学校行かないといけないんで」
色々な学科のある専門学校の被服デザイン課で、真琴はすでに顔なじみとなっていた。かなり早い段階から体験入学やオープンキャンパスに毎回必ず参加していた成果だ。
「どうよ? 学園祭の方」
「結構きついんですけど、楽しいですよ」
『受付』と書かれた紙の下がる机越しに軽口をきいてくるのは在学生の先輩達だ。
前回の体験入学の時に真琴のデザインを見せて、アドバイスなどをして貰った経緯から、学園祭の事は学科内に知れ渡っていた。
「楽しんでいるうちはまだ大丈夫! 本当にきつくなると布見るのすら嫌になるよ。そうだ、学園祭には皆で観に行くから、良い物作ってよ?」
「嫌だな、ただでさえ煮詰まってるんだからプレッシャーかけないで下さいよ」
背中に飛んでくるプレッシャーに、苦笑を返してから真琴は先輩方の作品に目を移した。
『マネキンショー』と銘打って、教室内を細かく区切り、自分に与えられたスペースを自由に装飾し、マネキンに衣装を着せて展示する。それがマネキンショーだ。
一つ一つの衣装をじっくりと見てまわる。
演劇部の衣装に掛かりきりで、自分の作品が一向に浮かんで来なくなってしまったプチスランプに真琴は陥ってしまっていたので、その気晴らし兼、勉強にと足を運んだのだ
「真琴君」
「あ、先生。お邪魔させて貰ってます」
「うん。じっくり観てって。どれか気に入ったのあった?」
「はい。皆それぞれ勉強になります」
会場の様子を見に来ていた講師と雑談を交わしていると、廊下から他の学科が呼び込みをする声が聞こえて来た。
「演劇課の公演がこの後12時から予定されております! お時間に余裕のある方は是非お立ちよりくださーい!」
演劇課。
その言葉に真琴はつい反応してしまった。
廊下を振り返った真琴に、講師から意外そうな声がかけられた。
「演劇興味あるの? って、あぁ。衣装デザイン頼まれてるって言ってたね」
「あ、はい。この学校には演劇課もあるんですね」
「うん。役者コースしかないから、セットなんかは全部役者志望の生徒がやるんだけど、それも大切な勉強なんだって。大きな公演になると衣装はうちの学科が依頼されたりするけど、今回は演劇課の方で用意した物みたいだね」
「そうなんですか……」
役者の専門学校がある。
なら、スタッフの学校があってもいい筈だし、演劇課の講師ならばその辺の情報を持っているかも知れない。
「観に行ってみるか………」
***
第二幕 第三場
少女
あなたが私と同じ異世界の子?
少年
あぁ。やっと会えたね。
少女
結構、噂聞いたわ。竜を手懐けたって本当?
少年
手懐けたっていうか、なんか懐かれたんだよね。俺も、君の噂は聞いてたよ。
大変な旅だったね。
少女
うん。でも、まだ終わった訳じゃないし……
少年
大丈夫だよ。実はこの間商人から言い話を聞いたんだ。
異世界に送ってくれる西の魔女の所へは、この町の隣にある森を抜ければ一日で着けるんだって。
少女
本当?! でも危ないんじゃ……
少年
多少の危険はあるかもしれないけど、そんなに獰猛な種類はいないって話だよ。
少女
それじゃ……
少年
ああ。もうすぐ元の世界に戻れるよ!
***
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