その翌日から、明良は動き出した。

 まずは演劇部。自分がスタッフをやりたい理由をきちんと話して、頼み込んだ。

「…けど、もう音響は放送部に頼んじゃってるから」

 その解答を受けて、今度は放送部へと足を運んだ。演劇部同様に将来の夢を話して、今回だけ特例で音響をやらせて貰えないかと相談した。

「いや、でも演劇部が決める事だろ? 最終的には」

 放送部の部長は、明良の夢に共感してくれた。彼の夢もまた、プロの音響になる事だったのだ。

「次の話し合いの時に、提案してみるよ」

 そう言ってくれた。

 これで、明良は話し合いを待つばかりとなった。

「じゃあ、学園祭まではこの流れで作業を進めて行きましょう」

 数日後行われた演劇部と、関連部活の話し合いの場に真琴は来ていた。何とか復活させた衣装と共に。


 最初とデザインが変わってしまった物もあったが、それは何とか許可が貰えた。

真琴の気がかりは後一つだけだった。

「最後に、音響。どうする?」

 演劇部の問いかけは、放送部に向いていた。

「俺としては、やらせてやっても良いと思ってる。ただし、演劇部のスタッフとしてだけど」

 放送部からは意外な答えが返って来た。真琴はやらせないと言うと思っていたのだ。

「うちは、女を部活に入れないって決定しちまってるし、公言もしてる。だから今更野本を入れ直してやる事は出来ない。でも、演劇部のスタッフが放送部と一緒に仕事をする分には、問題ない」

その放送部の意見に、これまた意外な事に演劇部からも賛同の意が放たれた。

「うちも、もう少ない人数で台本書き換えてるし、別にやらせてあげても良いかなって皆で決めたんだ。あんなに真剣なのに、やらせてあげないの、んか可哀想だし……」

 じゃ、決定で良いね? と言う締めで、その話し合いは終了した。

 演劇部の部室から出ると真琴は足早に進路指導室に向かった。そこに明良が待っているからだ。

「野本! お前音響やって良いって!」

「うそ! 本当に?!」

 ガタン! と派手な音がして椅子が仰向けに倒れている。それくらい勢い良く明良が立ち上がったのだ。

「静かに!」

 咳払いと共にぴしゃりと言い渡された教師からの言葉に短く謝ると、二人は被服室へと移動した。

「良かったな。やらせて貰えて」

「うん。凄く嬉しい。ありがとうね」

「? なんで俺にありがとう?」

「兵頭がさ、色々行動してるの見て自分から動かなきゃって思ったの。で、行動してみたら上手く行き始めたから」

 言いなが明良が差し出したのは学校見学の報告書だった。

見学に行った学校と、その内容を高校側に報告して、今の2年が受験の時に役立てるのが目的の物だ。

「行ったのか、見学」

「行って来た。兵頭が教えてくれた所。2校とも良かったんだけど、私のやりたい事に近かったのはこっちの学校。家からは遠いんだけど、でも先生も良かったから」

「そっか」

 嬉しそうに話す明良を見ていて、真琴の口元も思わず緩んで来た。

 2人でニッと笑いあった後、真琴がある提案をした。

「なぁ、2人が一人前になったらコラボレートしないか?」

「具体的に言うと?」

「俺のブランドのファッションショーを野本が作るんだよ。舞台人として」

「服と音のコラボレート?」

「そう! 良くないか?」

「良い。その話乗ったわ!」

 がしっと握手を交わして、2人は何年後になるかわからない約束を交わした。

 どちらかだけしか成功しないかもしれない。

 もしかするとどちらも成功しないかもしれない。

 でも、この時の2人にはもうショーの光景が浮かんでいた。
 


        ***

 

    第二幕 第五場
 

西魔女
  さあ!扉を潜るんだ。これで元の世界に戻れるよ。


少女
(少年に)
  あの、ありがとう。


少年
(不思議そうに)
  お礼なんて、言われる事してないよ。


少女
  ううん。してくれたの。私に教えてくれたもの。


少年
  なにを?


少女
  自分から動く事。
  それから、絶対に諦めない事。


少年
  俺が教えたんじゃない。
  君が気付いたんだよ。


少女
  それでも、お礼が言いたいの。ありがとう。


少年
  じゃあ俺も、ありがとうだな。
  君が居たから頑張れたんだ。


少女
  きっと、戻る場所は違うだろうけど、どこかで会えると良いね。


少年
  あぁ。そうだね。


西魔女
  お別れは済んだかい? そろそろ扉で繋げた異世界との空間が閉じちまう。急いで潜りな。


少女
  魔女さんも、ありがとう


少年
  俺からも、ありがとうございました。


西魔女
  礼なんざ要らないよ。
  私達は元の世界に帰ったあんたらが、ここで学んだ事を忘れないでいてくれる事が何よりなんだから。
  さ、扉を開けるんだ。


(少年、少女顔を見合わせ頷いてから扉を開ける)



       暗転



        ***