ラブル

 客引き合戦も終盤に差し掛かり、そろそろ各部の発表が始まり始めた時、問題が発生した。会長のお出ましである。

「ペナルティ1! サッカー部!」
「ええ! 何でだよ。」
「何でじゃないわ馬鹿者! 私は『演芸発表大会』と言ったのよ。誰が実演して良いと言ったの!」
「だってサッカーと演芸関係ないじゃんよ!」
「うつけ者! 関係のない事をやって目立ってこそのこの大会。直ぐ変更なさい!」
「…ぇえぃ! サッカーを使った友情物ドラマをやる! お前等自分のキャラ固めろ!」
「だって部長セリフは…?」
「アドリブ!」
「それで良いのよ。さぁ轟、次に行くわよ!」

 一体、バイト部にはどんな劇をやれと言うのか、この会長は……。
 しかし、各所回って見ても『実演』を行っていた部は少数で、パソコン部は漫才をしながらネットのやり方等を教えていたし、アニメ部は部の中の声優部門と作画部門に分かれてオリジナルアニメを放映。映画部は撮影風景を芝居仕立てで説明・・・と部に関係ある事をやっている所もあれば、読書部は大喜利、弓道部は能、小説部は芝居…となんの関係も無い事をやっている部もある。そして放送部もその一つだ。

[きゃー!]

 突如校舎内に女性の叫び声が響いた。

「な、なんだ?」
「なに? 何かあったの?」

 ざわめく生徒達に声に答える様に再び声が聞こえて来る。と、構内に緊迫感のある曲が掛かった。

[突如上がった悲鳴、現場に駆け付けてみるとそこ には崩れ落ちる一人の女性]

 校内中のスピーカーからナレーションが流れた。それでもまだざわつく生徒達を尻目にナレーションは続いた。

[狙った物は必ず奪い取る怪盗R。それに挑むは私立探偵の五十嵐。Rと五十嵐の追跡劇が始まる]

「なんなの? 一体?」
「なんか、放送室の方から始まるらしいよ」
「行ってみようか?」

 冒頭のみを放送で流し、後は校内を走り回る移動芝居を行うことになった放送部は葉月が怪盗R(裁縫部に作って貰った衣装の黒のハイネックロングコートにレザーパンツ着用)弥生が探偵五十嵐(コンタクトに同じく作って貰った衣装膝上までスリットの入ったロングスカートに白のYシャツ着用)を演じている。

「待て、R! 盗んだ物をおとなしく返すんだ!」
「っと言われて素直に返す馬鹿がいるか!」

 ギャラリーが集まった所でRが逃亡を始める。

「必殺! ビラ煙幕!」
「ぶわっ!」

 コートに隠してい大量のビラを五十嵐に向けて投げ付ける。顔面に直撃した(ビラには放送部の活動内容などが美術部の手により書かれている)

「…はぁづぅきぃー! じゃない! R! てめぇ、待ちやがれ! ぶっ飛ばす!」

 打ち合わせにない攻撃をされて弥生がマジギレした。こうなると昔から手に負えない。

「ああ…弥生ちゃんってばりりしいなぁ…」
「…もしかして、皐月さんが五十嵐をお気に入りな理由はこれですか?」
「うん! 弥生ちゃんって普段はわかんないけど男顔で身長あってかっこいいのぉーv」

 まさか弥生がライバルになるとは思ってもみなかった和之だった……
(哀れだ…)
 とは言え、今回の五十嵐の格好はちゃんと女に見える物で、つまりは格好良い姉さん系の容貌になっている訳である。

「きゃっ!」
「おっとぉ…」

 逃亡を続けるRは新入生と廊下でぶつかっていた。

「悪いな、怪我はないか?」
「あ、いいえ…」

 座り込んでいる女生徒に片膝を付きながら問い掛け、手を貸してやる。

「良かった」

 自分の顔が女受けする事を十二分に分かっていてRは微笑む。大抵の子はぽ〜っと見とれてしまうが、この子も例外ではなかった。そんな事をしていると、後ろから叫び声が聞こえて来た。

「待てぇ、R! そこになおれ!」
「やっべ…」

 マジギレしたままの五十嵐が物凄い勢いで廊下を掛けて来る。それを視界の端に止めて直ぐさまRは女生徒に向き直った。

「これ、俺の連絡先。なんかあったら連絡して」

 内ポケットから取り出した名刺(マン研とパソコン部共同策の放送部名刺)を握らせると黒いコートの裾をはためかせながらRは走り去った。その名刺には

        怪盗Rこと
     放送部部長 葉月凌一郎
      放送室は管理棟2階
      新規入部者歓迎中!

 と、凝ったロゴで書かれ、回りに、マン研によるキレイな模様が描かれている。

「くっそぉ〜、逃したか…」

 まだRから貰った名刺を持ってぽ〜っとしている女生徒ではなく、五十嵐は敢えて違う生徒に話しかけた。

「黒コートの男を見掛けなかった?」
「あ、あっちに……」
「あっち? OK、ありがと!」

 ニコッっと笑顔で礼を述べて五十嵐も走り出した。サバサバとした元気の良い笑顔をみて頬を赤らめている男子生徒がその場に立ち尽くしていた。

「よくやるぜ2人共………」

 ぼそっと集音マイクに入らない様に和之が漏らした。二人の後を撮影、兼後始末をしながら和之が追っているのだ。和之の撮影したこの光景は全校のモニターに写しだされているが、放送室ではみられない為皐月も外に出て状況を見ながら実況をしているのだが……

「みうしなっちゃったぁ〜…」

 迷子になっていた……。

「うわぁ〜ん、和君どこぉ〜?」

 その声が葉月達の先回りをしている和之のインカムに届いたが、今ここでカメラを止めたら後でどうなるか分かった物じゃない。

「皐月さん! そちらに行きたいのは山々何ですが今カメラを止める訳には行きません! 実況は俺がやります。皐月さんは放送室に御帰還下さい!お側に行けなくて申し訳ありません!」
「うん…ごめんねぇ和君。ありがとぉ〜」
(全部丸聞こえ何だよバカップル!)

 叫びたい衝動に駆られながら弥生は走った。もちろん校内中に響き渡ったこの会話のお陰で2人は公認の中として扱われる事になる…が、この放送以降、皐月のお馬鹿さ加減が放っておけないと言う世話好きな男子諸君からのさりげないアプローチに和之が悩まされる事になってしまったのもまた事実である。

「しまった! この先は!」
「観念しなR! 先は屋上。逃げ場はないよ!」

 そんなこんなで2人の追いかけっこも終盤戦に差し掛かっていた。

(…やっべぇー…どうやって逃げよう……)
(しくじったわ…どうやって逃がそう……)

 考え無しに走りまくっていた2人は最悪な事になったいた。森崎の書いてくれた台本では最後に五十嵐がRを取り逃がし、どこからか不敵なの勝利宣言が聞こえて来て終わる物であったのだが……追い詰めてしまった……

(屋上っつても2階校舎の屋上で真後ろには植林…やってみるか……)
「観念? 何故そんな物をする必要がある?」
「何ですって?」
 増えて来たギャラリーと共に弥生は内心本気で驚いていた。
(何するつもりだ? 葉月…)
「怪盗は……」

 Rがゆっくりと後退し始める。フェンスのない屋上の先端に立った。

「飛んで逃げるのが大道だぜ!」
「なっ…!」

 飛んだ。
 ロングコートをなびかせながら落ちて行くRの後を追って五十嵐が先端に駆け寄った。ギャラリーに徹していた生徒達も同様に走る。

(いない……)

 下に落ちた様子も、服がどこかに引っ掛かっている様子も無くRの姿は忽然と消えていた。

[残念だったな五十嵐。今回は俺の勝ちだ]
「R!」
[次に会う時を楽しみにしていよう]
[こうしてRの勝利で終局を迎えた追走劇、果たして2人はまた対決する時が来るのだろうか? その時まで……]

 短いイントロの後に台本や衣装協力の部活を放送し終わった時計ったかの様に勧誘会の修了が告げられた。この間2人が落した生徒の数は何人に昇るのだろう?

「きたねぇよ放送部………」

 これが今日参加部活の間で一番多く言われた言葉だった………


   


馬高校
放送部喜談