ブル

 そして4月も終盤に押し迫った晴天のこの日、教室に備え付けのモニターを通じて会長静野の姿が学園中に移しだされた。

「それでは1年生諸君! 楽しみながらゆっくりと検討して下さい。正式入部勧誘会開催します!」

 わぁっ! っと言う歓声と共に花々しく勧誘会が始まった。開催式の間は勧誘を禁止されていた為式が終わると同時に勧誘の嵐が押しかけた。

「皆ー! ダンス部のステージは第1体育館です。よろしくね!」
「サッカー部は紅白試合形式で実演見て貰います!マネージャーも同時募集中だよー!」
「パソコン部は5階パソコンルームにて! ゲームもやれる! ネットのやり方も教えるよ!」

 怒鳴る、叫ぶ、掴まえる。
 皆様々な方法でまずは宣伝を行う。しかし呼べない部活があるのも確か。例えば女の子だけの部活、読書部。活動も地味だから叫んで呼び込むだけの発表内容が無いのだ。次にアニメ部、マン研バイト部、美術部と文科系の部活が続々と続く。だがおとなしく1年生が来るのを待っていてはこの学校の生徒はやっていられない。そして彼等が取った手は……コレである。

[Hai! 一年生諸君! これからの3年間、大切な時間高校生活を大きく左右する部活選び! 慎重にやって行来ましょーう! こんにちは、放送部でーす!]

 クラブDJ並みの音量で校内中に弥生の声が響き渡る。もちろんBGMには最新ヒットチャート曲が掛けられている。

「汚ねぇぞ! 放送部!」
[あら、何か今罵声が聞こえましたねぇ?]
「な、何で放送室内にいて聞こえてんだ?」
[それは、私が中継に出て来てるからなんですねー。放送部DJ五十嵐只今教室棟4階の1年1組前に居まーす。なぜって私が1年1組だから何ですね。今の今まで教室で開会式聞いてました。因みに放送室のスイッチはタイマーONする様にセッティングして置いたので他の部員もサボっている訳ではございません。ではそろそろ放送室に返してみましょうかね。放送室の葉月ー?]

 すると校舎のモニターに放送室内の様子が写し出された。

『はい、こちら放送室です。えーこちらはですね同じ文科系部活の部長さん方に来て頂いています。実はですね、事前に呼び込み競争に勝てない事を見越しまして、こちらでモニターPRして貰おうと思ってます。では美術部さんからどうぞ』

 これが放送部の打ち出した作戦その1。
 『他の部活を手助けして高感度をちょっとでも上げておこう作戦』である。もちろんこの後の放送部の出し物に参加してくれている部活はPR時間が少しだけ長いと言う特典付だ。
 そんなこんなでただ今天馬高校内では放送を使った文科系部活案内と肉声で頑張る運動部の壮絶な客引き合戦が繰り広げられている。(あーうるせぇ)
 その頃職員室では

「どうなりますかねぇ?」
「私はサッカー部に一口乗りましたよ」
「ああ、私もです。昔から男女関係なく人気が高いですからなぁ」
「松坂先生はどうされました?」
「私はやっぱりバイト部ですかね。あそこは堅いでしょう」
「堅実ですねぇ、私はアニメ部にしたんですよ。大博打ですけどねぇ、最近漫画家とか希望してる子も多いですからね」

 賭けに興じていた。

「榎本先生は? どうしたんですか?」
「私ですか? 私はもちもん自分の部に」
「と言いますと…」
「今1年生しかいないあの…」
「放送部ですか」
「もちろん」

 真っ赤な口紅が塗られている唇が笑みを刻んだ。
職員室に似つかわしくないピンクのキャミにミニスートで上に白衣を着ていなければ(いや、着ていてもか)只のケバい姉さんに見える彼女が放送部顧問の養護の先生榎本円である。名前を“エン”と読み間違えたり、年齢の事を聞いたりすると容赦無く傷口に塩を塗られるので注意しよう。

「しかし放送部は…」
「部員数が多いのも考え物じゃないですか?」
「何言ってるんです。この賭け、どの部活が一番“面白かったか”を調査した結果の1位を当てる物ですよ? 入部数が多い少ないじゃないんです。問題は」
「ほ、本当かね。今泉君?」
「あれ? 俺事前に言っときませんでしたっけ?」
「今からじゃエントリーは取り消んのか?」
「駄目です。成績上げてくれんなら考えますが?」

 今泉夏彦(2年)は生徒会の会計である。何かイベントが起こる度にこうやって職員室に陣を張り、賭け事の元締めを商いとしている。
(賭けの収益金は生徒会で次のイベントの特別予算とされ、上位順に配付されます。きっちり上前跳ねてるけど)

「さぁ、ここからが見物ですよぉ!」

 各部の発表が始まる。

   


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放送部喜談