トラブル
2
「ほんと助かったわー、こんなに機会に詳しい子が入ってくれて」 「しかも2人も」 「いやいや」 「どーも、どーも。喜んで頂けて幸いです」 弥生の働きで何とか無事に終わった入学式のその後で、放送部3人に招かれて部室に遊びに来ていた。 「しかし、私もまさか手伝いが入るとは思いませんでしたよ」 「俺だってくそ重い器材運べる女がいるとは思わなかったよ」 「喧嘩売ってんの?」 「褒めてんの」 『お任せを!』と弥生が啖呵を切って少ししてから『時間無いだろ? 俺も手伝うよ』と、やはり新入生席からやって来たのが彼、葉月凌一郎だ。 容姿端麗で華奢な外見からは想像もつかないが、弥生には運べそうも無い器材を軽々と運び、適格な指示先輩3人を使い、大勢の前でも怯まずマイクチェックをする姿に場内にざわめきが起こった程だ。 (でも口悪いんだよなぁこいつ) 一応初対面の人間なので気を使って言わないでいる弥生の心の声が実際言葉として放たれる時は以外と…いや、予想通りもう直ぐ来るだろう。 「でも…これからが大変だね……」 唐突にできんぼトリオが話しを切り出した。 「どうしたんです? 浮かない顔して?」 その弥生の問いに言い辛そうに二年生の先輩が話を切り出した。 「……実はね、潰れそうなの放送部…」 「………はい?」 弥生と葉月の声が重なった。 「いや、だからね、うちの学校は4人いないと部活として認めて貰えないのよ」 「え、でも俺等入ったから大丈夫なんじゃないんですか?」 葉月の問いに三人は顔を見合わせた後あっけらかんと答えた。 「それがねー、辞めるんだわ、私達」 「え…えぇえぇぇぇ!」 「何でですか?」 弥生が叫び、葉月が問い詰める。 そんな二人に悪びれず、簡単に退部理由を三人は語った。 「3年2人は受験の為」 「私は来週引っ越すんだ。北海道に」 「……何て半端な時期に…」 「そう言う問題じゃないでしょ葉月! どーすんですか? 廃部じゃないですか!」 切羽詰った様子の一年二人に対してニ・三年は呑気にお菓子を食べながら気楽な答を返してきた。 「大丈夫よー。明後日部活動勧誘会があるから」 「新入部員入るまで辞めない様にするから」 「2人でパフォーマンスがんばってね☆」 「マジかよ……」 勧誘会まであと2日を切っているこの状況でどうしろと言うのかこの人達は…… 「あ、そろそろ自分達の教室帰った方がいいわね。じゃ、また放課後に」 にっこりと送り出されて部室を出て、分かりにくい校舎を何とか歩いて教室に辿り付くまで2人の頭は明日の事でいっぱいいっぱいだった。 それでも自己紹介を無事に終わらせ、担任の話しも聞いて、友達も速攻作って、なんだかんだでもう放課後だ。 「っつー訳で、勧誘会の頭からの流れはこんなかんじなのよ」 と、見せられたのは去年の歓迎会の台本だ。開式から閉式までおよそ4時間! 途中休憩ありのイベントだ。 「すごいっスね……」 あっけに取られている二人に、三年生がもう慣れた風に説明を始めた。 「うちの学校生徒に自主性を持たせてて、生徒会長が許可すればどんな物でも部になっちゃうから部活数多いのよー」 「だからこんなに時間あっても一つの部に与えられるPR時間はわずか2分!」 「その間どれだけ目立ったかが勝負の勝敗に大きく関わるから是非ともがんばってね」 「じゃ今日はもう遅いし、2人共ネタ考えなきゃいけないから器材見学は明日って事でいいね?」 「それじゃぁ帰りましょーう!」 こうして時間も無いのに大事な1日目は無意味に終了してしまった。 そして2日目 「弥生! 器材見せて貰いに行こうぜー」 「わかったわふぁっふぁ。ちょっとまってひょっふぉはっふぇ」 「食い終わってから返事していーから……」 持ち前のキャラで既に友達が出来まくっていた弥生は入学2日目にして放課後のお喋りしながらおやつタイムを満喫していた。 「ねーねー五十嵐さん、今の隣のクラスの葉月君でしょ? 中学同じだったの?」 仲の良さそうな二人を見て、クラスメイトが少しそわそわした様子で弥生に問い掛けて来た。 「違うよ? 何で?」 「だって葉月君わりとカッコ良いしー」 「入学式の活躍劇、もう2、3年にも伝わってるらしいじゃん?」 「その入学式の活躍劇で謎とされている葉月の相方が私だったりする」 「えー! マジでぇ?」 「もしかして葉月君と付き合ってたりすんの?」 「まさかぁ、昨日が初対面だもん」 「え、じゃ・じゃぁ。紹介してって言ったらOKしてくれる?」 「もちろん。紹介でも何でもしてあげるよ」 「誰が誰を誰に紹介するって?」 弥生に徐々に近寄りながら話をしていた少女は、急に背後から渦中の人の声が聞こえて悲鳴に近い驚嘆の声を上げた。 「キャァ! 葉月君!」 「おせぇんだよ。人待たせといて何時までも喋ってんな。おら行くぞ」 「いたぁーい! 髪引っ張んないでよ!」 他のクラスメイトの事などほぼ無視をして、怒濤のごとく去る2人……。 そんな様子を思わず静観してしまった面々であったが…… 「ちょーショックー。葉月君あーゆー性格だったんだぁ」 「……あの2人、なんか良いコンビだよね」 「付き合う方にポテト1つ」 「お互いの彼氏、彼女も紹介し合って仲の良いお友達続けるのにチョコシェイク」 「葉月君の片思いになって五十嵐さんは気付かない方にアップルパイ」 賭けの結果は……はてさてどうなる事ですやら。 |
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天
馬高校放送部喜談