トラ

「ほら、これが器材庫のカギ、こっちが説明書なんかが入いってる棚のカギ、同じ棚の下の段にマイクとかが入ってるらしい。そのカギはこれな」
「ありがとーございましたー」

 職員室から放送室と機材庫の鍵を借りると、
できんぼトリオの案内で不慣れな校舎を案内して貰いつつ器材庫へと向かう。

「弥生ちゃんそっちじゃないよ」
「器材庫は職員室を出たら直進。そっち行ったら普通棟に戻っちゃうよ」
「え? あ、もー! この校舎わかりにくーい!」
「う〜ん。新入生とか文化祭に来たお客さんは、皆迷ってるねぇ……」

 この高校、少し変わった造りをしている。その上教室配置が他校とはちょっとばかり違うので余計解らない。

「何で体育館が2階にあるんですか?」
「2階じゃなくて、中2階だよ。正確には」
「中2階?」
「そう。ほら、そこに短い階段が見えるでしょ? あの先に体育館があるの」
「床が他の2階より高くなってる訳ですか」
「それで中2階ね。しかし何でまた?」
「体育館の下が小体育館と格技場になってるからじゃない? 小体育館でもバレーとかやるから割と天井高いのよ」
「ちなみに小体育館での集会時はコンセント以外の配線一切ないからアンプ、受信機内蔵型のスピーカーとワイヤレスのハンドマイクをこの放送室から運ばなきゃならんから覚悟しときな」
「げぇ〜…」

 この他にもなぜか校舎の端にあって行くまでが大変な保健室とか、体育館の屋根を利用した為に4階にあるプールとか変な場所が多々用意(?)されている。

「ふわぁ〜…」
「さすが私立高校…量が違うわ」
「うん。器材の量だけは凄いと思うよ」
「だけってのは?」
「殆ど使った事ないんだなーこれが」
「卒業した先輩使ってたんじゃないんですか?」

 苦笑を浮かべながら言う三年に弥生が聞く。

「いや、いらないって言ってんのに予算くれるからつい…」
「無意味に買ってた訳ですか…弥生、お前どれくらい解りそう?」
「う〜ん、この辺のは大体は解るかな? 後は説明書と格闘だね。そっちは?」
「同じ様なもん。後は拠点になる放送室次第か」

 一通り機材を見て満足そうな二人の様子を見て、先輩達が先を促す。

「んじゃ行きますか? 放送室」
「隣なんだけどねー」

 そう言いながら一人が機材庫の鍵を閉め、もう一人が放送室の鍵を開けた。

「こっちは私等も少し教えられるんだ」

 と二年の先輩が言うやいなや、三年生二人のデスチャーを伴った怒涛の説明が始まった。

「入り口と一体型になってるこのポストがリクエストBOXで、横の用紙にリクエスト曲を書いて貰ってるの。用紙の原本は部室にあるから。割と無くなるから少なくなったらすぐに補充する事」
「入ってすぐに目に付くこの棚は靴箱なのだ。つまりここから先は土足厳禁。今度自分用のスリッパ持って来なね。で、靴箱の上にあるのが緊急放送用のメモ用紙とペン。よくパクられるから気を付ける様に」
「ドアを背にして右が部室、左がスタジオ、正面がブース。スタジオ、ブース内は飲食厳禁。スタジオ内にCDのストックあるからかける曲なかったらそこから探してね」
「おお、急に先輩らしく…」
「だって私等機械がわかんないだけだし」
「昼の放送はやってたのさ」
「お昼ってどんな風にやってたんですか?」
「どうって。リクエストで来た曲かけるだけ」
「…それだけですか?」
「そう」
(つまんねぇー!)

 と思っても口には出さない弥生だった。

「天馬高校って割と部活やイベントが盛んで放送部も他の部に劣らず活動してるって聞いてたけど…期待外れだったな……」
(うわっバカ、人が言わないでおいた事を!)

 内心で焦った弥生をよそに先輩がたは割合あっさりと葉月の嫌味を受け流した。

「そうねー確かに目立つ事はしてないわね」
「目立たない事はしてるんですか?」

 また葉月がきつい物言いで聞き返す。しかし、やっぱり先輩は気にした様子もなく答えを返した。

「ほら、そこのトロフィー見て」
「『アナウンス大会優勝』いっぱいありますね」
「それが放送部が盛んだと言われる所以。だけどアナウンス大会なんて野球やサッカー みたいに大きく取り上げられる訳じゃないし、アナウンス自体がDJって言うより朗読みたいな物だから」
「じゃあ体育祭とかの活躍劇って……」
「それは先輩達がそこそこの器材組んでやったからよ。実況もお決まりのセリフだったしねぇ」

 過去を思い出しながら語っている先輩の後ろでこそこそとドアに向かう二人の影が・・・・・

「こらこら二人共。何帰ろうとしてんのかな?」
「入部考え直そうかなぁ・・・なんて……」
「何をおっしゃいますやら」
「私等辞めるのよ?」
「部員は君等2人と新一年のみ」
「やりたい放題、し放題…」
「さぁ、がんばって行こうか葉月君!」
「力合わせてやって行こうぜ五十嵐さん!」

 単純馬鹿2人。
 さて、この天馬高校は部活動が盛んと言うより強制的に参加させられている。どの生徒もどこかしらの部活に入らなければならないのだ。
 現在一番入部員数の多いのが『バイト部』何をするかって、バイトをするのだ。通常校なら帰宅部でバイトに励む物なのだろうが、この高校ではそうも行かない。そこでこの部活が発案された。部室にはありとあらゆるバイト情報誌が常設してあり、何時でもバイト口を探せる様になっている。

 他にはゲーム部、(CGで遊ぶ)遊・パソコン部、実用パソコン部、(漫画を読む)遊・読書部、(小説を読む)純・読書部にコンビニ研究会等の変わり種がある。野球部、サッカー部、弓道部、科学部、化学部、アニメーション部、軽音部、チアリーダー部、裁縫部、その他もろもろ変わり種も含めて全部で43の部活が明日の勧誘会で新入生獲得を目指すのだ。

「あ、これから他の部活やら生徒会やらと勧誘会の打ち合わせあるんだった」
「何時からです?」
「んー…後5分後」
「じゃぁ先輩急がないと!」
「俺等は適当にやりますから行って下さい」
「何を言いますやら」
「君達が行くのだよ」
「はい……?」
「明日のセッティングも君等にやって貰うんだから当たり前でしょ」
「は・早く言って下さいよぉ〜」
「あ、生徒会室はそこの階段登って、最上階の左端だからね」

 そんなこんなで明日が2人の初仕事である。

「先輩のばかぁ〜!」

   


馬高校
放送部喜談