トラブル
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「なんでここの体育館、多目的ホール並みの設備なのよ……」 「私立だからだろ」 「おかげで大変だったじゃない………」 「俺に言うな」 体育館の放送室で2人は床の上に倒れ伏していた。それと言うのも昨日の会議で照明も放送部の担当だと言う事が解り、その上…… 『音楽をかけたいんだ。こう…登場と同時にね、この曲をさ……』 『あ、だったらウチの部は照明効果を使いたいな、なんて。スポットライトとか浴びたらさぁ、目立つだろーなー……』 『ち、ちょっと待って下さいよ! そんなに 注文されてもウチ等2人しかいないんですから無理ですよ!』 『無理じゃなぁーい! やるんだ! これをやらずして何が放送部かー!』 『そんな事言われたって…!』 『難しい事は言って無い! オペレーションを1人、袖に2人、照明に2人居れば十分補える簡単な仕事でこっちだって我慢してるんだぞ!』 『俺等2人を除いてどっから後の3人が出て来たんですか!』 『2、3年が居るだろう!』 『あの3人ですか?!』 『だって何にも分からないって…』 『教えろ、仕込め! 君等なら出来る!』 『そんな訳でこれが各部からの企画書だ。宜しく頼むぞ!』 『それじゃぁ会議解散!』 ・・・とまぁ各部活がそれぞれに好き勝手な提案をした揚げ句、強引に会議を終了され、断る暇も無かったお陰で2人は会議後に照明器材のレクチャーまで受けて、今日も朝からセッティングの為に走りまくっていたのだ。 で、今は勧誘会が始まるまでのしばしの休息を取っている所である。 「おぉ〜い、お2人さん。3分前よ〜」 「ほげぇ〜い」 「先輩マイクの受け渡しお願いしますね」 「まーかせて。それくらいしか出来ないから、しっかりやらせて貰うわよ」 各部活のパフォーマンス次第では上袖(客席から見て右側)からマイクを持って出る所もあれば、逆の所もある。したがって、上袖から出て、下袖にはけて行く部活が続くとマイクの受け渡しが間に合わない。そこで、マイクを2本用意し、放送部員が両袖に1人づつ待機して、マイクの受け渡しを前の部活が発表している間に行うのだ。 「さぁーて、気合い入れるぞ弥生!」 「ほいさぁ!」 部活動勧誘会の開始である。 まず、最初に運動部系列から。サッカー、バレー、バスケ、テニスと言った部は実演をする事が多いのでステージに何もない状態にしている。次に文科系。アニメ部や化学部と言ったスペースを取らない部活がパフォーマンスをしている間に幕を締め、その後ろでバンド部や演劇部と言った下準備の必要な部活のセッティングを進める。 「よぉ〜し……なんとかバンド部と演劇は終わったわね……」 「山は越えたな……」 「…ってくつろいでる場合じゃなぁ〜い! 次うちの出番じゃない!」 「うわ、忘れてた! 弥生早く行け。呼ばれまくってる!」 そのころステージでは 《放送部! 次放送部の番ですよー! いないんですか?》 「はぁーい! はいはい。いまぁーす!」 袖中から叫ぶ弥生の声に合わせて場内のライトが消されステージにスポットが当たる。 「お待たせ致しました、放送部でぇーす!」 光の中に弥生が現れるとテンポの良い曲が掛かり、ステージのバックスクリーンに出せるだけの色で派手なカラーの背景が照らし出された。 「はい、今ご覧頂いている様にスポットライト、背景ライト、この勧誘会の様な各集会のマイクステージセッティング、先程のバンド部の音響に加え、昼の放送、文化祭、体育祭とやりがいも活躍も目立つ事も出来る放送部。これだけでも楽しげな部活なのですが、もう1つ、ビッグな特典がございます。何だか解りますか? 私のクラスメートはもう解っているかもしれませんね。1年生しかいないこの会場で私のクラスメートと言う事は、そう、こんな風に部活紹介していますがかく言う私も皆様と同じ1年生! つまり! 現在放送部には先輩がいません。部員は私五十嵐弥生と同じ1年の、葉月凌一郎! 顔出せ!」 弥生の注文に答えて葉月が放送室の小窓からマイク片手に姿を表す。 ステージ上と小窓から綺麗に交互に二人は勧誘を始めた。 「この2人しかおりません。俺達も昨日から今日に掛けて怒濤の如く動いて来たのでこれからの活動方針なんかは新入部員が入ってから決めようと思っております」 「やりたい放題好き放題にやれると言う期待膨らむ放送部、だけど厳しい現実もある」 「4人いなければ部活として認められないと言う学校制度が有る限り、最低でも後2人入ってくれないと予算のない貧乏部活になってしまいます」 「なので皆様! どうか一つ興味を持った方は放送室までお越し下さい! 放送室は管理棟2階の進路資料室向かい側です。どうぞよろしくお願いします!」 最後には2人揃った綺麗なお辞儀で閉めて放送部に与えられたPR時間2分間をぎりぎり使った勧誘は吉と出るか凶と出るか。結果は部活動仮入部申し込み締切りの2週間後、4時50分に出る事となる。 |
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馬高校放送部喜談