| 「ヴゥ〜………」「…何だよ」
 「別に」
 「じゃぁ、睨むな、唸るな、腐るな、茹るな、ふてるな、絡むな、恨むな、いじけるな」
 「そんなに次早に言わなくても良いじゃない!」
 「マシンガントークが俺の売りだ」
 「私だって同じですぅ〜」
 「それは駄目だろ」
 「何がよ?」
 「キャラ被っちゃってたらDJ始めた時聞きずらいし飽きる。お前キャラ変えろ」
 「ざけんな! 自己中男! あんたがキャラ変えれば良いでしょ! 外見どうりに!」
 
 弥生の不機嫌の原因は、葉月にあるのだが、葉月の責任じゃ無いと言えば葉月の責任じゃ無い。
 勧誘会から早2週間。現在4時30分。放送部に新入部員の姿は…無い。
 いや、来るには来たのだ。仮入部希望者が。
 但し、葉月狙いの女子生徒が………。
 
 「……全員追い帰しやがって」
 「入れて良かったのか? あのコギャル集団。1人2人じゃ無い団体だぞ? 少数だったら1コーナー任せても面白いかもしれん、が、集団になると手が付けられない。そんな団体を入れても良かったのか?」
 「いくない……」
 「じゃ俺がお前に睨まれる筋合い無いだろうが」
 「一時的に入れといて後で使えそうなの2・3人残して後は蹴落とせば良かったじゃんよ〜! 何もあの場で全員帰さなくても〜…」
 「詐欺だろそれじゃ……」
 
 見た目さわやか好青年の葉月が女子に人気があるのは良く解る。確かに見てくれは良い。それは認めるが、喋りだすと始末に負えない。
 話しかける隙を与えないマシンガントークとその口の悪さと態度のふてぶてしさが殆どの女の子達にショックを与えている。
 
 「しかもあんた金に汚いのよ!」
 「喧しい、とっととジュース代よこせ」
 「こう言うのは男の子のおごりでしょー!」
 「買いに行ってやっただけでも有り難く思え。俺はフェミニストだからな」
 「フェミニストなら奢ってくれても良いじゃん」
 「バーカ、本当の意味で言うフェミニストってのはな、男女差別をせず、両者をいかなる時も平等に見られる男の事を言うんだ。したがって女だから重いもん持たなくて良いぞ、なんて俺が言うと思うなよ。肉体構造上どう考えても女には持てなさそうな物は持ってやるけどな」
 「ケチ……」
 「たかが120円をおごって貰おうと思ってるお前の方がよっぽどケチだっつーの」
 「ねぇ、あんた1人暮らしとかしてる?」
 「なんで?」
 「やたら金にうるさいから。生活厳しいのかなーと思って」
 「1人暮しはしてるが金には…そんなに困ってない。俺が金にうるさいのは中学のせいだ」
 「……予算が少なかったわけね」
 「そゆこと。だから天馬に来たんだよ。予算も器材も多いし、文化祭はプロ呼べる。演劇部もダンス部も活動は盛んだし、軽音部との共同ライブもやれる。私立ならではの行事の多さにも引かれたしな。3年間でやりたい事は山程あるんだ」
 「そんで、ここに入部しちゃう俺はそれに付き合わされるわけね……」
 
 ドアを背にして座っていいた葉月は声の主を確認しようと振り返り、その姿に驚いた。
 
 「和之! お前高校は放送止めて陸上でインハイ出るんだって……」
 「じ、事情が変わったんだ」
 「弥生ちゃぁ〜ん」
 
 長身な和之の後ろからぴょこっと現れたと思ったら、弥生に飛びついてくる小柄な少女。
 
 「うげ! 聖堂院皐月!」
 「弥生ちゃんならぁ、絶対放送部入ると思ってたんだぁv だからぁ、一緒に頑張ろうねぇv」
 「…どうなってんだ? 一体……」
 
 取りあえず自己紹介が必要らしい。
 
 「じゃ、まず俺から。名前は水無月 和之。葉月とは中学の時の放送委員会仲間。だからといって機械面は聞かないでくれ。器材運搬とアナウンスに事務処理担当」
 「さっきインハイがどうとかって言ってたじゃない。あれはなんなの?」
 短い拍手の後弥生が葉月に問いを向けた。
 「こいつ陸部と掛け持ちだったんだよ。こんな寝ぼけた面してても一応県大会出場経験者なんだ。んで? 変わった事情ってのは何なんだ?」
 
 誉めているのか貶しているのか良く分からない説明をしてから、和之の方を向いた葉月の目には明らかに好奇心の文字が見える。
 
 「そ、それは…あの、その……後で教える」
 「なぁーによ、気になるわねぇ? はっきり言いなさいよ」
 「…その……か、彼女が……ここに入ると言うから…だから……その…………」
 
 彼女、と言ってチラッと目線を投げた先には、皐月がポヤポヤと座っている。
 なるほど。
 
 「へぇえぇ? お前にも春がたかぁ」
 「和之君、今のうちならまだ止められる。あの娘だけは止めときな」
 「貴方は彼女の友人でしょう? 何でそんな?」
 「友人だからよ! 良い? あの娘はね…」
 「弥生待った。そっから先は本人に聞こうか?」
 「自己紹介ですかぁ〜? えっとぉ、名前はぁ、聖堂院皐月って言いますぅ。中学校はぁ、弥生ちゃんとおんなじでぇ、お向かいの中学校に通ってましたぁ。中学校ではぁ、弥生ちゃんと一緒にぃ放送部でぱーそなりてぃーをやってましたぁ。機械のことはぁ、あんまり解らないけどぉ、集会のせってぃんぐくらいなら1人でやれますぅ。頑張りますからぁ、よろしくお願いしまぁすv」
 「ダラダラダラダラした文法で喋り腐って! 相変わらず欝陶しいわね!」
 「…理由って、これか?」
 「違う。これだったら私もまだ止めん。この娘の悪癖は自分の気に入った物、人が何かしらの形で傷付けられた時に普段からは想像も付かないくらいえげつないやり方で相手を陥れる所よ」
 「それは…何つうか、色んな意味で怖いな」
 「ええ、そりゃぁもう」
 
 そんな会話は聞かせたい本人の耳には全く入っていない様子だ。
 
 「皐月さん今お気に入りの物は何なんですか?」
 「ん〜とねぇ…えりゅとろん!」
 
 唐突な言葉に葉月が弥生に通訳を求めた。
 
 「…何の事だ?」
 「最新のパワーネットブックよ」
 「パソコンですか?」
 「そ。それの色が赤いからエリュトロン」
 「うん。ぎりしゃ語なんだぁ。かわいいでしょv」
 「ええ! とても可愛らしいお名前です!」
 「わぁーいv 弥生ちゃん、えりゅとろん褒められたよぉ」
 「あー、よかったわねー……」
 「うんvv」
 「…弥生、彼女の事歓迎してないのか?」
 「はははー、そんな事ないよー」
 
 乾いた笑いを浮かべる弥生に何か思ったのか葉月は皐月に確認をすべく問いを向けた。
 
 「皐月ちゃん、因みに今気に入ってる人は?」
 「弥生ちゃん!」
 「葉月貴様ぁ!」
 「隠そうとするから余計バレ安くなるんだよ。中学時に何かあったな?」
 「う…じ、実は…・・・中2の時にやった自主映画で 男役やったのよ、私……」
 「それがどうかしたのか?」
 
 女子が多い部活なんかではよくある話だ。葉月も和之もそれだけでは皐月が弥生を気に入る理由がわからない。
 
 「あのねぇこれその時のお写真なのーv」
 「皐月―! わざわざパウチにして持ち歩いてんのかい貴様ぁ!」
 
 叫ぶ弥生はシカトして皐月の差し出した写真を2人は受け取った。
 受け取ったのは3枚の写真で、それは短い髪に短い学ランを着込み、ドアを蹴り飛している写真、モノトーン系のジャケットを着て2〜3人の人間を殴り倒している写真、最後にはロングコートで屋上に佇んでいる写真だった。
 
 「うわー…」
 「まるっきり野郎じゃんこれ」
 「和之! 呆然としない! 葉月! 野郎って言うな! 皐月! 写真没収!」
 「やぁだぁ! だってぇ、かっこ良いんだもん」
 
 写真の奪い合いを始める二人を勇める意味も込めて葉月がまとめの言葉を口にした。
 
 「…まぁ、何はともあれ当面はこの4人で部活やってく訳だな」
 「みたいね……」
 
 部員数ぎりぎり4人! と言ういや〜な感じで始まった部活勧誘会。放送部の明日はあるのか? それは生徒会長様のご機嫌次第だったりする。
 
 
 「つまらないわ」
 「は?」
 「つ・ま・ら・な・い。と言ったのよ。何だか今年は勧誘会に一芸が無かったわ」
 「でも去年の様な物は、ちょっとやりすぎだったんじゃぁ……?」
 「何を言っているのこの大馬鹿者! 去年のあれを 見てしまっているからこそ今年がつまらないんで しょう! あぁ、何か面白い事無いかしら」
 
 生徒会長様はその特権と言われるゴージャスソファー(革張りの肘置きがついてるあれね)に身を伏して嘆いている。何をやるにも自分が苦労せずに盛大で派手でゴージャスで、はちゃめちゃで楽しく全校生徒を巻き込める事をやるのがモットーなこの生徒会長は2年生の静野 雫と言う。
 そしてそんな会長の元、全校生徒への被害をなるべく最小限に押さえるのに使命感を燃やしているのが同じく2年の会長補佐轟 恭平、又の名を『悲劇の人』と言う。
 
 「どうせだったらもう一度盛大に正入部勧誘会でもやったらどうです?」
 「ば、馬鹿! 我妻、何て事を……!」
 「それだわ! 良い子ね我妻、流石私の手下ね! 轟! 準備なさい!」
 
 怒られる事も何の準備なのかも解り切っていたがあえて轟は聞いてみた。小さなちいさな、何の役にも立たない反抗である。
 
 「……何のですか?」
 「クソ馬鹿者! 正入部勧誘会のに決まっているでしょう! 各部に通達よ!」
 
 かくしてのほほん書記我妻光彦(2年)の余計な一言のせいで静野の楽しみが始まり、轟の苦難の日々が幕を開けた。
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