トラブル

「各部対抗演芸大発表会?」
「だって」

 そろそろ本入部〆切も押し迫ったある日、生徒会側から各部室に備え付けられているパソコンにメールが入った。部員獲得数の少ない部活を優先に会場や時間を設定して発表会を行うとの事だ。(因みにこのパソコン校内にあるアンテナで飛ばしているので、外との連絡、ネットは出来ない仕組みになっている)

「なに? この会場の優先順位って…」
「体育館で順番に発表する訳じゃ無いみたいだな」
「えっとね。追加めーるにぃ、『放送部は今日の4じから話しがあるので生徒会室にくるように』って書いてあるよぉ」
「なぁ、もしかして各会場全てのセッティングやらされるんじゃ……」

 恐ろしい事を和之が口にした。冗談では無い。あんなに大量の部活があって、順番に発表を行うだけで大変なのに、会場がバラバラの所をたった4人でやれと言うのが無謀だ。

「ぜっっっっっっっったい断って来てよ!」
「俺だって地獄を見たくはない」
「発表会だってぇ。放送部は何やろうかぁ。ねぇ、和君は何がやりたいー?」
「皐月さんがおっしゃる意見なら何でも賛成致します!」
「うわーいv 嬉しいなぁ♪ 皐月ねぇ、やりたい事あったんだぁ」
「ちょぉっと待ちなあんたら! 部長がいない間に好き勝手決めんじゃ無いよ。和之も見意を聞かないうちから賛成しない! 後でどんな酷い目に合ったって知らないからね!」

 何時の間にやら部長は葉月に決まったらしい。とすると弥生は副部長か?

「皐月さんが俺に課す至難ならどんな事でも乗り越えて見せませう!」
「だめだ…完璧悪魔の誘惑に負けてるわ」

 そして生徒会室でも悪魔の誘惑に負けそうになっている人が一名

「…だ、だからね葉月君。無理は承知でのお願いなの。ね? お願い!」
「そう、言われましても……」

 っと、とてつもなく困った表情を浮かべ、伏し目がちにした目を相手の顔から逸らす。

「そちらも大変なのは、良く判ります。俺だって、先輩の為に引き受けて差し上げたいんですが…」

 そこまで言うと顔を上げて、表情は切なそうに。

「なにせ部員の数が、いない物ですから…」

 そしてまた悲しそうに俯く。そうすると大抵女の先輩は……

「わかったわ、葉月君。無理言ってごめんね?」
「いえ…いいんです」
「各部のセッティングの方はこっちでどうにかするから、もうそんな悲しそうな顔しないで、ね?」
「はい。……先輩って優しいんですね」

 にっこりと微笑む。相手がフラっとしているうちに葉月はさっさと『じゃ後宜しく。失礼しました』と何時もの調子に戻って退出する。その後には悪魔の誘惑に負けてしまった生徒会文化部長三石 良子(2年)がまだうっとりした状態で固まっていた。

 最低だ葉月凌一郎……。

「三石さーん、洗脳されんのは勝手だけど、各部活、特に演劇部とダンス部に断り入れるのは自分でやってねー?」
「はぁっ! そうだったー! いやぁー葉月君カンバーック!」

 後から応接室に入って来た生徒会議長団の神月 綾人(2年)の言葉で我に帰ってももう完全に後の祭りだったりする。因みに神月はこの学校では数少ない葉月の中学時代を知る人物の1人である。

「どどどどーしよー神月! 会長に殺されるー!」
「その前に体育部長に怒られるんじゃぁないかな?ねぇ溝口ちゃん?」
「運動部に責められんのはあたしなんだぞ! バカ良子!」
「ごめん、ついうっとり…いや、うっかりして…」

 ショートヘアーで活発そうな印象を与える割には身長が小さく、でも性格はさばさばしている微妙にバランスの悪いキャラをしているのが生徒会体育部長の溝口 冴(2年)だ。

「あんたが自分で責任取とんなよ? あたしゃ知らんからね」
「そんな事言わずにさー、一緒に会長んとこ行こうよぉ〜。助けてよー!」
「グッバーイ」

 軍隊の見送りの如く神月と溝口が敬礼を送る。現役高校生が何で『宇○戦○ヤ○ト』の敬礼を知っているのか疑問だが、2人の行動に三石は青ざめた。

「何か……トラブルでも起きたのかしら?」
「か、会…長・・・・・・・・・」

 怖い…その場にだけ暗雲が立ち込めている様だ。逆立つ髪はまさにメデューサの如く。今にも目が光って怪しい光線を放ちそうだ。

「すいません! あの、放送部の説得に失敗しちゃって…それで……あの……」
「そう…一切器材が使えないのね?」
「あ、でも開会式にあたる集会でのセッティングはやって貰えます…」
「面白いじゃない」
「は…い?」
「機械の力を借りずに己の技のみで勝負に挑むのもまた一興。各部には私が伝えるわ」
「あ、はい!」

 三石が心の奥で『よっしゃぁ!』と叫んだのは言うまでも無い。

「それより…今年の放送部は面白そうな者共 じゃないの。楽しませて貰うわよぉ…ふっふっふっ」

 この時から清野の頭は“どうやって放送部にバカをやらせるか”を課題としたイベントを考える事にフル活用される事になる。
 突然の通達に戸惑う1年生(と先生方)を顧みず、各部は正入部員獲得の為慌ただしく始動した。

   


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